石灰の原料となる石灰岩は、九州や関東で幅広く産出されるが、火山がない高知県の石灰岩は火山の噴出岩が含まれないため、より純度が高いのが特徴。品質だけではなく、有効埋蔵量も世界一といわれている。そうした地の利を生かし、創業から128年にわたって良質な石灰製品の製造に取り組んでいるのが田中石灰工業㈱だ。

石灰は白壁の漆喰(しっくい) をはじめ、グラウンドの「ライン引き」などさまざまな用途があり、同社は主に建材と食品添加物用の石灰製造を得意としている。そのなかで、看板商品となっているのが壁塗り用のクリーム状の漆喰「タナクリーム」だ。これは20年以上前、左官職人の減少が顕著になり、経験が少なくてもカンタンに壁塗りできるようにと開発されたもの。漆喰塗りは水と石灰などを練る作業に半日かかるといわれるが、このクリームは直接壁に塗ることができ、大幅な時間短縮ができるという。

石灰製品づくりのこだわりを追求する 田中社長
                      

しかし、近年はその売上減少が悩みの種に。発売当初はものめずらしさもあって順調に売り上げを伸ばしていたが、他社もそれに追随するように同様の商品をつぎつぎと開発するようになり、田中克也社長(58歳)は「差別化をはからなければ、このまま埋もれてしまう」と危機感を覚えていたという。そこで、同社ではひび割れしにくい、より強度の高いタナクリームの製造に挑戦。漆喰に使用する伝統技術(石灰のほか、藁などのつなぎを混ぜて強度を上げる)を参考に、植物由来の素材でありながら鋼鉄の5分の1の軽さと5倍の強度を誇るCNF(セルロースナノファイバー)の粉末を石灰と混ぜてみたという。

高知県で採れる高品質な 石灰岩

ところが、「いくらやってもうまく混ざらず、失敗つづきだった」と田中社長。配合を変えたり、左官職人にアドバイスをもらったりと、あらゆる手をつくしたが成果が出ず、一時はあきらめかけたという。そんなある日、高知県の紙産業技術センターが液体状のCNFを扱っているという情報を耳にし、田中社長はすかさずアプローチ。石灰にそれを混ぜたところ、見事にクリーム状になり、理想的な強度の製品に仕上がったという。もちろん、その評判は上々、2021年5月にCNF入りに全面リニューアルしタナクリームを販売したところ、売り上げが10㌫以上アップし、ふたたび市場に田中石灰工業の存在感を示すことができたそうだ。

ちなみに、同社の石灰事業は全体の15㌫程度で、そのほかは鉱物の輸入やリサイクル事業がメインとなっている。が、それでも「社名を変えるつもりはない」と田中社長。「うちは石灰に育てられてきた会社。地場産業を守り、その看板を背負っていく覚悟は変わらない」と力強い。この熱い思い、プライドがタナクリームの一番の〝つなぎ〟なのかもしれない。