東京都心からのアクセスが良く、豊かな自然と特産品に満ちあふれた東京多摩地域。本コーナーでは東京都商工会連合会 多摩観光推進協議会と連携し、新しい多摩の観光の魅力をお伝えしていく。今号で取り上げるのは多摩観光推進協議会が企画し、㈱JR東日本びゅうツーリズム&セールスが受託した観光列車ツアー「青梅線沿線・奥多摩 地酒列車」(企画協力:沿線まるごと社、JR東日本八王子支社)。先ごろ、初のモニターツアーが実施され、あらたな多摩観光の目玉として定着していくことが期待されている。さっそく、ツアー当日の様子や参加者たちの声を紹介したい。

観光ツアー「地酒列車」
出発進行‼

自然豊かで清浄な伏流水に恵まれていることから、東京多摩地域では古くから酒造りが盛んに行われ、現在も8蔵がそれぞれ個性的な地酒を造りつづけている。「青梅線沿線・奥多摩 地酒列車」は、その〝酒どころとしての多摩〟にあらためてスポットを当てた観光列車ツアーだ。10月8日(土)に行われたモニターツアー第1弾には、多摩観光推進協議会の会員34団体や旅行会社、メディアなどの関係者が参加、月刊『コロンブス』記者もそのひとりとしてこれまでにない多摩観光の魅力を存分に体験してきた。まずはその模様をリポートしてみたい。
ツアー当日は、前夜までの雨がカラリと上がって朝から気持ちの良い秋晴れ。まずは集合場所のJR立川駅構内の受付で日本酒2本(各300㍉㍑)とおつまみ2種、ペットボトルの水、おちょこ、「旅のしおり」のセットを受け取ってJR青梅線のホームへ。

今回のモニターツアーで使用された団体列車
出発時、ツアー参加者に配られたセット。お酒は小澤酒造の「澤乃井 特別純米」か石川酒造の「多満自慢 純米無濾過」、 田村酒造場の「嘉泉 ひやおろし」(各300 ㍉㍑)からいずれか2 本。おつまみ「清酒漬け 炙りえいひれ」と「噛むほどに旨み滴るいか燻製」は澤乃井や多満自慢に浸してつくっ たもので、多摩の地酒との相性バツグン

9時15分、出発進行‼ 全席、貸し切りの列車が終点の奥多摩駅に向けて走り出し、地酒列車の旅が幕を開けた。往路のメインイベントはもちろん、多摩の地酒の試飲タイムだ。走りはじめて10分、まずは一献、かけつけ三杯とばかりに車両のドアを開けて入って来たのは小澤酒造。おちょこにつがれた酒は見るからに上品な「澤乃井 純米吟醸 蒼天」。吟醸香となめらかな口当たりが特徴の酒で、低温でジックリ丁ねいに醸すことによって米の旨味がシッカリ引き出され、味わい深い逸品に仕上がっていた。その味わいが舌に残っている間に、列車は拝島駅へ。ここには看板銘柄「多満自慢」を醸造する石川酒造がある。当日は30 代の杜氏が「新しい味」にチャレンジしたという「リンゴ酸の爽やか風味シリーズ」のひとつ「熟れる赤 純米吟醸熟成酒」を持参。特殊な酵母を使うことでりんご酸のさわやかな酸味が際立ち、軽やかな後味で飲みやすい新感覚の日本酒だった。ついで、停車したのは田村酒造場のある福生駅。どうぞ、と差し出されたのが「嘉泉 純米吟醸 生貯蔵酒」。「味わいはどうか」と問われたので、「香りよく、味は淡麗、なめらかなのど越しで清涼感も素晴らしい」とひと言。まさに「嘉き泉」を冠するにふさわしい旨味だった。

車内では、出発時に受け取った2 本とは別に、蔵元たちが客席にとっておきの銘酒を注いで回ってくれた
次第に山深くなっていく車窓の景色

そうこうしている間に、ついさっきまで商業施設や住宅が主だった車窓には徐々に緑が増え、標高が上がるにつれてのどかな山間の風景が広がった。列車の心地よい揺れとほろ酔い気分、自然と旅情が湧いてくる。そんな情緒に浸っているうちに先述の小澤酒造のある沢井駅へ。
JRの粋な計らいによって各蔵のある駅ではそれぞれ臨時停車、下車はできなかったが、窓越しにホームをノゾいただけで駅の趣を感じることができた。もちろん停車中には各蔵の歴史や特徴、仕込み水などに関する車内アナウンスも。まさに「呑み鉄」の気分、多摩の酒蔵への愛着が深まった。
11時35分に終着駅の奥多摩駅に到着。ここからは1時間ほど自由行動の時間、本誌記者は地酒列車に合わせて駅前広場で開催されていたマルシェイベントで奥多摩のワサビ丼や立川のクラフトビールなどの地元グルメを味わったりした後、駅周辺をブラリと散策してみた。すぐ近くに昔ながらの商店や立派なご神木が立つ神社があり、その先には山間を多摩川やその支流、日原川が静かに流れていて風情タップリだった。駅からほんの数分歩けば奥多摩の自然に包まれることができるのが素晴らしい。
ツアー参加者たちが奥多摩駅前で思い思いの時間を楽しんだ後は、地酒列車も後半戦へ。12時35分に奥多摩駅を出発し、立川駅に向かう復路の車内では、山梨県小菅村の高級古民家ホテル「NIPPONIA小菅」のヘッドシェフによる地域食材を生かした特製おつまみが配られたほか、往路のときと同様に蔵元たちが日本酒を注いでまわってくれた。おかげで、最後まで多摩の地酒を思う存分に楽しみ、おみやげの日本酒もいただいて14時12分に立川駅に到着。こうして、多摩初の地酒列車の旅は幕を閉じたのだった。

奥多摩駅前のマルシェの様子。写真は本誌記者が東京都商工会連合会名誉会長の村越氏にインタビューしているところ。当日の模様はYouTube チャンネル『コロンブスTV』 で動画コンテンツとして11 月にアップ予定
マルシェに出店していた「⽴⾶⻨酒醸造所 TACHIHI BREWERY」でクラフトビールを、奥多摩の清流で育ったワサビ田での収 穫体験などを手掛ける「わさびブラザーズ」のキッチンカーでワサビ丼を購入
ワサビ丼のキッチンカーは行列ができるほど人気に。このほか、東京都酒造組合が都内にある 全9軒の酒蔵から選りすぐりのオススメ商品を展示販売、青梅の特産品販売を手掛ける「まちの駅青梅」やキャンピングカーレンタルの「BUSH CAMP」なども出店していた

モニターツアー
参加者にも大好評

多摩観光推進協議会によれば、「青梅線沿線・奥多摩 地酒列車」は今回の関係者・プレス向けモニターツアーにつづいて、11月と来年1・2月に一般参加者向けのモニターツアーを開催するという(11月はすでに満員御礼、1・2月は調整中、行程・提供内容は季節により変更になる場合も。詳細は多摩観光推進協議会HPへ)。その後、東京多摩のあらたな定番観光ツアーとなるかどうかは鉄道事業者や旅行会社、そして地域の行政や商工団体の盛り上げ方にかかっているが、今度のモニターツアーの評判はどうだったのか。参加者たちの声をいくつか紹介したい。「多摩の地酒の魅力もさることながら、立川などの大都市から、山と川に囲まれた〝東京の奥座敷〟奥多摩まで、車窓を通じて多摩の多様性とポテンシャルを多くの人に体感してもらえる素晴らしいツアーだった」と話したのは、かねてより行政の境を越えた多摩観光を提唱する東京都商工会連合会前会長(現・名誉会長)の村越政雄氏。東京都商工会連合会長で多摩観光推進協議会長を兼任する山下真一氏も「ぜひ定番ツアーとして定着させていきい。まずは気軽にこの地酒列車で多摩の魅力を知ってもらえば、その後、リピーターとして各地域を訪れるよいキッカケになると思う」と期待感を寄せた。そのほかの同商工会連合会の面々も同様の感想だった。
また、同商工会連合会以外の参加者たちも「普段、車窓をジックリ眺める機会はそうないので、都会と大自然を走る沿線の風景と、各駅の風情を感じられるのがいい。このツアーを機にJR青梅線のファンになる人も多いのではないか」(公益財団法人東京観光財団事務局長 鈴木勝氏)、「車窓からの山々の風景も楽しんだが、終点の奥多摩駅から歩いてすぐのところに自然を体感できるアウトドアフィールドが広がっているのが最高。多くの人にこの多摩の魅力を知ってほしい(トラベルニュース東京総局長 阿部政利氏)と、口々に多摩の自然の観光資源としてのポテンシャルの高さを強調。そしてもちろん、JR東日本からも「都内にこんなに豊かな自然と魅力的なお酒を造る酒蔵があると知らない人は多いと思う。旅行会社や地元事業者などと連携の下、定番ツアー化の可能性を探っていきたい」(マーケティング本部観光流動創造ユニットチーフ 石田宰氏)といった声が上がっていた。
このように、JR青梅線初の観光列車「地酒列車」は大成功。ぜひ春夏秋冬の東京多摩の観光ツアーのひとつとして定着していっ
てほしいものだ。そして、いずれは日帰りだけでなく、「奥多摩に宿泊してゆったりすごしたり、アウトドアアクティビティなどを体験するといったプランがあってもいいかもしれない」と東京都商工会連合会専務理事の傳田純氏。今後の展開に期待したいところだ。

「青梅線沿線・奥多摩 地酒列車」については、東方通信社グループの YouTubeチャンネル『コロンブスTV』の番組「東京TAMAらん旅図鑑」で関連動画を公開中!ぜひご視聴ください!