(上写真)大自然に囲まれた「びふかアイランド」。三日月湖ではカヌーなど水上スポーツも楽しめる

蛇行する天塩川の直進化工事で残った三日月湖と中島には美深町と第3セクターの㈱美深振興公社が運営する「びふかアイランド」がある。

この施設は1979年につくられ、宿泊、野営キャンプ、そして「温泉×チョウザメの養殖」というユニークな観光施設を運営している。客足はコロナ禍で遠のいたものの、天塩川と松原湿原に囲まれてキャビア(チョウザメの卵)が食べられる唯一無二の温泉宿としての魅力は健在。さらに一般市場向けのキャビアの生産も軌道にのりつつあるとあって、今後の巻き返しが期待されている。
公社の山口信夫社長(77歳)もこのコロナ禍に負けたくない、と意欲を燃やす。「これまでも平坦な日は一日もなかった」という通り、チョウザメの養殖事業についても何度か苦い経験が。「生きる化石といわれ、約3億年前から存在したとされるチョウザメは昭和初期までは天塩川にも生息していたが、産業排水による河川汚染や当時の開発などの影響で、1935年頃には絶滅。三日月湖で養殖を再開すれば施設の観光の目玉にもなるし、失われた自然の光景を蘇らせることができるかもしれないという希望もあり、この事業に取り組むことにした」と話す。

「北海道の自然を生かしたサービスを提供する」と話す 山口社長
チョウザメ飼育施設

本格的にチョウザメの養殖に挑んだのは83年、水産庁の寒冷地養殖試験に参加したときからだ。旧ソ連生まれのチョウザメを300匹放流するところからはじまった。ところが、事業は暗礁に乗り上げてしまう。チョウザメの養殖に関する知識が乏しかったからだ。「結局、水の還流のない三日月湖ではうまく育たないことがわかった」と山口社長は語る。だが、それでも山口社長はあきらめず、92年からは水槽での養殖実験に挑戦。「チョウザメはとても敏感な魚で、水道水から塩素を除くのはもちろん、水流や温度、エサなどの管理を少しでも怠ると死んでしまうため、苦労の連続だった」と振り返る。
こうした試行錯誤の末、美深振興公社はついにチョウザメの採卵に成功し、97年には無料でその生態が見学できるチョウザメ館のオープンにこぎ着けた。これでようやく、温泉とキャビアを同時に楽しめるオンリーワンの「びふかアイランド」モデルが誕生したのだ。
しかし、山口社長はこれで満足したわけではなかった。「採卵に成功したとはいえ、当時は年ごとの生産量がまちまちで、施設に来たお客さんに出す分のキャビアしか採れなかった」と。そこで、山口社長はその後も研究に没頭、20年には一般市場向けに販売ができるまでのノウハウを確立することに成功したという。「まだ量は少ないが、ビン詰の冷凍キャビアを販売できるようになった。お客さんからの反応も上々なので、今後は販売量を増やしていきたい」と山口社長は目を輝かせている。

びふか温泉施設はもともと林業従事者の保養センターとして開設された