不動産業者の㈱アイオ・ニックが餃子を販売する「餃子のみっちゃん家」事業部を社内に立ち上げた。どうしてそんなことに。

答えは鈴木健正社長(58歳)が小・中学生の頃に食べていた地元餃子の味が忘れられなかったからだ。その餃子はニンニクの効いた味で今でも記憶に染みついているという。「地元高崎のスーパーの店頭に屋台の餃子屋があって、よくお小遣いで買って食べていた」そうだ。その店はなくなってしまったが、同じくその餃子を食べていた同級生が、持ち帰り専門の餃子店「みっちゃん家」を市内にオープン。その味が昔食べた餃子とソックリで、また病みつきに。
ところが、同級生が開いたその餃子店も2019年8月に閉店することに。その後を継ぐはずだったテナントもこのコロナ禍で撤退することになり、鈴木社長にバトンタッチされることに。マッ先に浮かんだのはみっちゃん餃子を冷凍にして自動販売機で売ってみようというアイデアだった。当然、それはコロナ禍ということもあって自販機なら「密」が避けられると思ったからだ。不動産業でキタえた商売感覚もあって市内の地図はほとんど頭に入っている、「どこに自販機を置いたら売れそうか」といったことはすぐピンときたという。「置き場所となる地主との交渉」もお手のもの、自信があった。本業の不動産業で身につけたノウハウを食品業にも生かせると思ったというのだ。だから一見、ミスマッチに思える異業種にも乗り出すことができたのだ。

設置初日には、販売を待ちわびた人で長い行列ができた
不動産業と食品販売業の二刀流に臨むことになった 鈴木社長

もちろん苦労もあった。食材を安定的に大量調達するために農家や卸業者との折衝が半年以上つづいたのに加えて、同じ味で大量につくることも難題。試食を重ねること2年、21年6月にようやく1、2号機の設置がかなった。かつて、みっちゃん家のあった場所と、ドライブスルー感覚で出入りできるような場所で、13分で売り切れたという。
人気も上々、今では自販機は群馬県を中心に13機設置。販売店での小売りも同県内のローソンやJAファーマーズなど100店舗弱におよぶ。いずれは首都圏への販路拡大も考えているそうだが、課題は物流ということで、もう少し足場を固めてからとのこと。
失敗談もある。予想以上に売れて製造を急いだため、完全冷凍する前の商品を販売してしまい、お客さんからうまく焼けないとクレームがきたことも。何十軒という販売先に1軒1軒社長みずからがお詫びしながら商品の取り替えをして回ったそうだ。

冷凍自動販売機の設置場所は群馬県を中心に現在13カ所
                         

一方で「好調な自動販売機のおかげで本業の不動産業も順調だ」と鈴木社長。この勢いにノッて最近はブームになっているオートキャンプ場づくりに関心を持っているという。手ぶらでキャンプが楽しめるグランピング施設の開発などに最近は力を入れているそうだ。「食品事業と不動産事業、これらを両輪に事業拡大をはかっていきたい」と意欲的だ。