(上写真)歯科技工物はパソコンでつくる時代に突入した

「共育ち(ともそだち)」を掲げる歯科技工物製造・販売の㈱シケン、「歯科医療の発展、人々の健康に貢献するとともに、全社員の豊かな人生を創出したい」というのが経営方針だ。

「社員はもちろん、歯科医師、衛生士、同業の技工士、そして患者と歯科医療を通じてつながるすべての人がともに成長し、繁栄することを目指す」と社長の島隆寛氏は話す。
同社は徳島県に本社を構えるほか、全国に26カ所の営業所と7カ所の技工所を有する業界屈指の企業だ。海外向けの技工所としてフィリピンにも大規模な生産拠点を持つ。歯科技工業界は技工士の個人事業主が圧倒的に多いなか、技工士を従業員として積極的に雇用し、企業化・組織化をはかっている。
もっとも、歯科技工技術はデジタル化がすすんだ今、日進月歩で進化を遂げている。保険診療において技工士がすべてを手作業でつくる時代は過去のもの。さらに、自由診療においては、口のなかを画像で撮り、CADシステムで対象物を設計し、3Dプリンターや切削マシンでデジタル製造する手法が広まりつつある。そこで、島社長は「個人事業では対応できなくなる時代が来る」と先を読み、企業化・組織化をすすめたのだ。そのため、現在も同社は資本力を生かして最新の機器を導入し、生産体制を拡充しつづけており、在籍する技工士は約400人に上り、取引先の歯科医院も三千数百軒におよぶ。

「歯科医療にかかわるすべての人たちとともに繫栄したい」と語る島社長
「人材育成」も経営の柱に据える

そんな同社が強みとするのは技術力と育成力だ。入れ歯や差し歯、ブリッジなどの保険適用の技工物から金属床、インプラント、オールセラミックなど特別な製造技術を要する物まで、医師の求めに応じて正確に製品化する。島社長は「技工物をたんなるモノと捉えず、患者の健康を支える『命の源』と位置づけている」と述べる。入れ歯の土台になる樹脂と既製品の歯が結合しやすいよう歯を製造する段階で穴を開ける最新技術で特許も取った。育成力についても「モノづくりは人づくり」と考え、技工技術のほか、取引先の医師のニーズを汲み取れる営業マンを育てる体制を整えている。
一方で、社員が家庭と両立しやすい職場づくりにも力を入れている。女性社員にかぎらず、男性社員も育休を取得できる制度をつくり、子育て支援に熱心な企業に与えられる厚生労働省の「くるみん認定」を取得した。取得した背景にはかつて、年間3200人いた歯科技工学校の卒業者数が今では4分の1の800人ほどに減ったことがある。業界は深刻な担い手不足に直面しているのだ。そのためには「若い人に魅力的な職場を整えることだ」と島社長。そしてこれからは「技工技術の急速な進展にともなう技工士の企業化・組織化の流れは止まらない。だからこそ『共育ち』の精神でお客さまに喜ばれる製品を提供し、ともに成長できる企業を目指していきたい」と原点に立ち返る。