茨城県牛久市の㈲松蔵屋は、酒の小売りを手掛け、酒造りもする蔵元。信頼する蔵から仕入れた日本酒やワインを管理し販売する一方、厳選素材を使ったリキュールも造って限定直販しているのだ。

「規模拡大に魅力は感じない。100 年企業とか、長く支持してもらえる酒販店になりたい」と体現型の酒造づくりを目指す石田社長

「酒を安売りするだけの小売店は廃れていく」――。14年前、そんな思いを共有し、東北から近畿の酒販店13軒が「ANTS(アンツ)」を結成した。集まった主旨について松蔵屋の石田英雄社長(58歳)は「歴史ある酒屋を残すためには造り手(蔵元)と売り手(酒販店)が手を組んで、安売り合戦に陥らないマーケットをつくることだ」と話す。ちなみに、グループ名は「複数のアリ」という意。「蟻の思いも天に届く」(力の弱いものでも一生懸命にやれば望みを叶られる)という思いを込めた。

体験型の酒屋づくりを目指す石田社長酒類は徹底した温度、紫外線管理のもとで保管されている

その一方で同社が注力しているのがリキュール造りだ。現在、このリキュールは自社工場「UMA Lab.(ウーマ・ラボ)」で製造中、商品ラインアップには保存料・着色料を使わず、キウイやグアバ、パイナップルなどの果肉・果汁をたっぷり使った「くまんばち」シリーズのほか、果物によって時期・年限定の幻のリキュール「UMA」がある。「食べる果実のお酒」と呼ばれるほどの芳醇な味わいが特徴で、いずれもアルコール度数は5~7㌫。工場名でもあるUMAは「正体不明」などの意味で、転じて「一期一会のおいしさを伝えたい」という思いを込めたという。最近は「極上レモンサワーの素」も人気を集めており、グレープフルーツサワーと柚子サワーの素も開発中だそうだ。

店内には無料試飲コーナーがあり、その場で納得したものを選ぶことができる

実はこうしたリキュール類は賞味期限が定められていないが、松蔵屋はあえて「半年」という期限を設定している。消費者に安心・安全を提供し、「信頼」を担保するためだ。卸し先も商圏がかぶらないよう配慮し、ANTSメンバー(現在27軒)など基本的に各都道府県に1軒に限定、ネット販売なども控えている。それは「瓶やケースだけでなく、顧客と交わした意見も持ち帰ってもらいたいからだ」と石田社長。「酒屋の価値」「酒屋の仕事」にこだわる酒販店だ。