ペットフード加工を手掛ける「まことば」。その強みは何といっても、ハンターの石郷岡誠氏とその妻で元動物病院看護師の百世氏が、それぞれの得意分野を生かして二人三脚で経営していることだ。

フードの食材はシカの肉や天然物の魚。石郷岡氏は「シカ肉はみずから狩猟したり、ハンター仲間から鮮度の良い肉を仕入れたりして調達し、魚もできるだけ地元の漁師から水揚げされたばかりのものを直接買い取ったり、市場で新鮮なものを仕入れたりしている」と、自然由来と鮮度へのこだわりを強調する。加工に関しても「安全・安心を提供したい」と無添加を貫いているのはもちろん、「犬や猫の好みや栄養バランスなど、妻が動物病院看護師の経験で得た知識が生かされている」と胸を張る。

加工作業をする石郷岡誠氏

ペットフードの商品ラインアップは数十種類で、肉や魚を乾燥させたジャーキー系のものが多い。食材別では肉と魚で6対4の割合だ。なかでも売れているのが、魚の「チカ」のジャーキーで、売り上げ全体の半分以上を占める。チカはワカサギに似た体長約15㎝の海水魚で、地元で水揚げされる。新鮮な状態で入手し、エラと内臓を取って干す。乾燥させると香ばしいにおいがし、ほかのフードと比べてペットの食いつきが違うという。

 

主力商品のチカのジャーキー

商品は加工場に併設する直売所のほか、オンラインでも販売。価格帯は1袋600円台からと決して安くはないが、主に「ペットの健康に気をつかう人たち」から支持を得て、堅実に売り上げを伸ばしている。

石郷岡夫妻がこの「まことば」をはじめたのは、石郷岡氏が会社員時代、自分で釣ったサケを干して「トバ」にし、友人や知人に振る舞った経験があったからだ。
「思った以上に好評で、自宅で犬を飼っていたこともあってペットフードとして売り出すことを思いついた」という。百世氏も「動物看護師の経験が生かせる」と経営に参画した。

元動物病院看護師の石郷岡百世氏

事業開始当初は乾燥・保存段階でカビが生じ、売り物にならなかったが、試行錯誤の結果、カビを防ぐ加工法を探り出し、商品化にこぎ着けた。「ジビエを食材にしていることで、鳥獣駆除に一役買っている」と石郷岡氏。「魚に関しても、小魚や傷ものの魚など市場には出せないものを有効活用している商品もある」と、SDGsの理念も意識している。

「将来的には、ペットフードの直売所を拠点に飲食店やドッグランなどを併設し、ペットと飼い主が楽しめるレジャーランドのような施設をつくりたい」と夢を語っている。