「天然の生け簀」と呼ばれ、富山湾随一の水揚げを誇る氷見漁港。イワシやマグロ、白エビなども有名だが、とくに冬のブリは「氷見寒ぶり」として名高い地域ブランドだ。そのブリの内臓を使った魚醤「鰤ぶり 醤しょう」を国内ではじめて開発・商品化したのが㈲片口屋。江戸期の天保元年創業という味噌・醤油の老舗だが、看板に胡坐をかくことなくあらたな商品づくりに挑戦しつづけている老舗企業である。
開発を思い立ったのは、片口屋の片口敏昭社長(64歳、当時は専務)と宇多川隆福井県立大学教授との出会いがあったからだ。2013年12月に宇田川教授から発酵食品の講演会の後に「ブリの魚醤をつくれないか」と提案された片岡社長は、翌年1月からブリの内臓を毎週、宇多川教授のもとに送り、共同開発をスタート。発酵、遠心分離、滅菌を行う設備を国の補助金で導入し、同年12月には見事に商品化に成功したという。
宇多川教授が開発したのは「速醸法」という手法。製造方法はブリの内臓を3日間発酵させた後、55 ℃に加熱して滅菌し、その後、遠心分離機で臭いの元になる油分を分離、濾過して塩を添加すれば魚醤ができあがる。「塩分は一般の醤油とほぼ同じ15%に抑えた。
また、分離した油分を鶏のエサに添加すればDHAが豊富に含まれた卵が産まれることがわかったし、地元の有機栽培農家や園芸高校では鰤醤をつくった後のカスと米ぬかを混ぜた肥料でスイカを栽培するなどの〝再生利用〟もはじまっている」と片口社長。当然、鰤醤そのものも地元青果店や魚加工店などが活用し、煎餅や干物の味つけ、ラーメンのスープなどさまざまな商品に活用されている。
もちろん、同社ではそのほかの商品にも力を入れている。「天然みそ」や「柚子みそ」、「丸大豆しょうゆ」だけでなく、ブリの切り身・麹・塩を使い1年以上自然発酵させた鰤味噌や鰤塩、鰤醤仕立てのバイ貝入り「炊き込みご飯の素」なども展開中だ。この8月には鰤醤の粉末入りで、カツオやイワシ、昆布を使い、柚子や三つ葉を含め山海の旨みを凝縮した「お吸い物」も新発売した。
こうした商品開発の根底にあるのは「できるかぎり無添加にこだわり、地元のブリを使った調味料を全国、世界に届けたい」という思いだ。その思いを胸に、昨今ではマレーシアやシンガポール、台湾などに輸出する一方、鰤醤や鰤味噌を生かすレシピをSNSで積極的に発信している。また、今年9~10月にかけては東京、大阪の百貨店の催事に出展し、鰤醤で味つけして瞬間冷凍した肉・魚を出品するという。まさに地域を牽引するリーディングカンパニーである。
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本記事は地域における〝産業栽培〟をテーマとした月刊『コロンブス』23年7月号に掲載されています。同誌では毎号、全国12エリアの元気企業・躍進企業の記事を掲載‼ ぜひご一読ください。