本気でスポーツに取り組むアスリートが引退すると、さまざまな変化が訪れます。食においては、運動量の減少(エネルギー消費量の減少)と偏食(栄養偏重)が課題に上がります。現役時代にバランスのよい食事をしていても、引退後にそれが維持できず偏りがでてしまう。また、筋肉維持や強化を目的とした食事などを引退後もつづけることで栄養バランスが崩れるといったことも考えられます。自分がアスリートであったことから、選手のセカンドライフに配慮するかたちでメニュー開発を行った視点は称賛に値すると思います。

■きっかけは町の活性化という情熱

自然豊かな道北にある士別市朝日町。夏シーズン対応のスキージャンプ競技台「三望台シャンツェ」があり、「合宿のまち」とも呼ばれている。「珈琲淹REFINED朝日店」はチェーン店でありながら、この地で連日、学生や強化選手、地元民はもちろん、旅するライダーたちでにぎわう人気店だ。化学調味料無添加のラーメン、スパイスや油をほとんど使わない和だしカレーなど、自家製にこだわったメニューが人気を集めている。

開店したのは2017年のこと。特養ホームに長年勤めていた店主の平塚直樹氏(51歳)は同町出身で「町の衰退を何とかしたい」と北海道に戻り、珈琲淹REFINED の札幌本店で研鑽を積むことに。

「アスリートのセカンドライフを支援したい」と熱い思いを語る店主の平塚さん
11 月から一部改装するが、店舗内には広い和室や手づくり作家による常設展示も

■アスリートのセカンドライフを食で支援

厳選した生豆を焙煎し、精巧に粉砕し、上品な香りのコーヒーを淹れるテクニックを身につけたほか、札幌本店の代表から旨みが強い「カフェライス」(コーヒーで炊いたコメ)の手法を学んだ。このカフェライスを提供しているのは「日本で札幌本店と朝日町の2カ所だけ」で、なかでも利尻昆布を使って和風に仕上げているのは朝日店だけだという。自慢の和だしカレーも独自の調理法で、昆布や煮干し、鰹節を使いながらもスパイスはわずかで小麦粉も使わない。「カレーは好きだが、高カロリーなのが気になる」という声に応えて考案したそうだ。

これらのこだわりメニューを開発した背景には、「アスリートのセカンドライフを支援したい」という平塚氏の思いがある。実は平塚氏自身も、スキー検定最高峰のクラウンプライズ保持者で、全日本スキー指導員の顔を持つアスリートだからだ。「競技に打ち込んだ人ほど引退後の食生活や社会生活に順応できないことがある。そこで、アスリートや引退後の人たちに適した料理や調理法を開発し、広めることで、その第二の人生を支援していきたい」と平塚氏は話す。

■食が紡ぐ街の活性化への取り組み

その思いはスイーツにもおよんでいる。大手製餡会社に勤めていた若い頃の経験を生かし、士別産小豆の大納言を使った餡あん「至福あん」も自家製造してネット販売している。そして販路を拡げる一方、同じく士別産の大豆「つくも4号」の知名度を高める活動もスタート。

11月からは店舗を改装し、きな粉の製造所を立ち上げるそうだ。「まずは地域密着を重んじ、自分で届けられるところから販売していきたい」と平塚氏。道北・朝日町に人を呼び込むために、日々、奔走している。

飲食店の枠にとどまらず、士別産小豆「大納言」を使った餡も製造
店主の自社採点

高橋良輔さん 朝日商工会 経営指導員

ココが太鼓判!

平塚さんがつくるメニューには地域を愛する魂が宿っています。2019 年12 月に赴任して「コーヒーで炊いたカフェライス」のオムカレーを食べたときにそう感じました。以後、平塚さんの地元愛が地域に支持されていることを知り、ずっと応援してきました。そして、昨年には本格的に餡製造を開始し、その思いを地域だけではなく、日本全国の皆さんにお届けできるようになってきました。現在は士別市原産の大豆「つくも4号」を使ったきな粉や大豆コーヒーの商品化に取り組んでおり、ますます目がはなせません!