金型製作は、その仕上げ段階での表面加工などにおいて、熟練者の技能による部分が多い技能集約型の加工産業です。零細性が強く、従業者20人に満たない事業所が全体の9割にのぼるといわれます。最新技術や機械化などによって、高精度金型の品質維持もすすんでいます。安価な中韓製との価格競争などもありますが、圧倒的な技術差で高精度なものでは競争力を維持しています。基礎力強化に加え、さらに新しい可能性を見出す努力も行って、地域や産業に貢献しようとするスタンスは地域密着型企業の鏡といえます。

■真空成型産業の根幹となる金型製作に特化

プラスチック製品の製法のひとつに「真空成形」というものがある。これはプラスチックのシートをヒーターで加熱し、金型をシートに当て真空状態で密着させて成形する技術で、食品包装容器など低コストで大量生産するプラスチック製品に向いている。バキュームモールド工業㈱は、その真空成形のための金型製作を得意とするモノづくり企業だ。真空成形を英訳した言葉を社名に冠するほど真空成形ひと筋で、真空成形用金型製造の分野では国内トップシェアを誇る。同社の真空成形用金型から世に出ているプラスチック製品は食品包装容器のほか、工業製品の搬送トレーや新幹線の客車の座席の背面跳ね上げ式テーブル、コンビニエンスストアの看板など幅広い。北澤正起社長(29歳)は「あまり知られてはいないが、真空成形製品は実は社会にあふれている」と語る。

「地域に根差す意識は忘れない」と語る北澤社長
真空成形でつくられた弁当箱などの食品包装容器

■4つの力が支える企業力

そんな同社は今年、創業65周年を迎えた。北澤社長によると、経営が長つづきする強みは「経験力」「技術力」「設備力」「提案力」の4つの力だという。なかでもとくに重視しているのが「設備力」と「提案力」で、北澤社長は「ニーズの変化に的確に応えられるよう設備投資を積極的に行うのはもちろん、ニーズを後追いするのではなく、時代の一歩先をいく提案力を持ちたい」と話す。「技術力」についても人材育成に力を入れ、離職率の低い安定した職場をつくって技術の継承をはかっている。

■2つのプロジェクト推進が加速する新たな姿

北澤社長はこうした4つの力を基盤としたうえで近年、ふたつの社内プロジェクトに力を入れている。ひとつは「江戸前樹脂工芸」という自社ブランドの確立で、もうひとつはDX化の推進だ。前者では環境意識の高まりで何かとネガティブな視線を向けられがちなプラスチックの良さを発信しようと、和モダンの模様をプラスチック製のシェードにほどこしたデザイン性の高い照明器具など、オリジナル製品を開発・製造している。「プラスチック製品を工芸品の水準まで昇華させ、プラスチックの再評価につなげたい」と意気込む。後者は職場のDX化をすすめ、本業の生産性向上に結びつける試みだ。

10人の従業員から成る専門チームによって、3カ所の工場・事業所と社員をデジタルで結ぶDXアプリを開発し、実用化にこぎつけた。将来的にはこのアプリ開発のノウハウを他事業者に提供し、業界全体の効率化を牽引したい考えだ。北澤社長は「わが社が本社を構える墨田区は町工場が多い。そうした他事業所とも手を携えて地域経済の底上げに貢献し、わが社を育ててくれた地元に恩返ししたい」と力を込める。

オリジナル工芸品の照明器具を発表する従業員ら
社長の自社採点

髙梨泰幸さん 墨田区 産業観光部 産振興課

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バキュームモールド工業様には、日頃から、区の産業振興政策にご協力いただいております。たとえばプロトタイプ実証実験支援事業でスタートアップ企業である(株)セラピアとの協業による社内のDX 推進に取り組んだり、10 月29 日、錦糸町にオープンした墨田区産業共創施設「SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)」のパートナーとしてスタートアップとの共創をすすめたりと、自社のビジネス機会獲得のために区の事業を積極的に活用しています。