美食の国日本。そういわれて久しいですが、今回取り上げた八重山そばのような地域に根差した郷土料理は今、危機にあるといわれています。それは食文化の継承問題です。重要性は高いと感じつつ、親から子、地域での伝承がなかなかうまくいかない状況があります。農水省では「うちの郷土料理」、文化庁では「100年フード」として継承を促すコンテンツを作成しています。しかし、地域や家庭での食育、消費者のニーズにあったカスタマイズなど変化を伴う継承も必要になってきているのではないでしょうか。また、地域からの情報発信も重要です。動画やコンテンツによる発信で知識として残すことも現代の継承方法にはあると考えます。そうした取り組みによって、元気企業のように地域に愛され、大切な食文化が残っていくことができるのだと思います。

■歴史=知名度。八重山そばの麺ならここというという安心感

ひと口に沖縄そばといっても、沖縄本島の麺と八重山地方(石垣、宮古島など)の麺には違いがある。原料は小麦で同じだが、本島の麺は手もみを経たちぢれ麺であるの対し、八重山の麺はストレートとなっており、カツオだしのつゆの絡み方が微妙に異なるのだ。

石垣島の金城製麺所はこの八重山そばの麺づくりで50年以上、のれんを守りつづけている。島民の誰もが口にしたことのあるおなじみの麺だ。島内のどの小売店に行っても店頭に並んでいるほか、飲食店でも定番メニューの食材として使われている。また、学校給食にも提供されるなど、老若男女を問わず親しまれており、今や金城製麺所を知らない島民はひとりもいないといっても過言ではない。

地元に根づく経営を心がける金城早志社長(右から2 人目)と秀信氏(同3 人目)の兄弟ら

■地元消費に支えられながら、自粛期間がチャンスに

その製造量は1日平均1,500袋(約3,000食)程度で、島内を中心に出荷されている。兄の金城早志代表(49歳)と二人三脚で経営を支える弟の秀信氏(48歳)は「うちの麺は何もつけずに素で食べてもおいしい」と胸を張る。コロナ禍で観光客が激減しても、島民が最大の消費者だったおかげで売り上げはほとんど落ちなかったという。

「むしろ外出自粛で家庭料理の機会が増えたことなどが追い風になり、本土からのオンライン注文も相ついだ」と秀信氏。その人気を下支えしているのが、麺を汁なしでツナ缶や鯖缶を混ぜて醤油で味つけする「からそば」だ。地元に根強いファンがいるうえ、全国のご当地料理を紹介するテレビ番組でも取り上げられ、ここ数年は本土でも話題に。また、主力商品のほかにも、とうがらしを混ぜ込んだとうがらし麺、微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)を配合したユーグレナ麺、ゴーヤを入れたゴーヤ麺など新商品の開発にも余念がない。

石垣伝統製法を守る麺づくり

■感謝は地域へ返すもの、守りとチャレンジの繰り返しで未来へ

そんな金城製麺所が本業とともに力を注いでいるのが地域貢献だ。同業者ら島内の5社で合同会社をつくり、2021年に新庁舎が落成した石垣市役所で庁内食堂を運営。毎週土曜日にはその場を借りてこども食堂を開き、地元の子どもたちに八重山そばを提供している。毎回、利用者が30~50人に上る盛況ぶりで、秀信氏は「夏休み期間は毎日オープンし、島民に喜ばれ手応えを感じた」と話す。

「これからもうちを育ててくれた地元に恩返ししていきたい」と秀信氏。「主力の麺の味わいを守りながら、新商品の開発など思い切ったチャレンジをしていきたい」と意気込んでいる。

石垣市役所庁内食堂でこども食堂を運営する地域貢献も
社長の自社採点

座喜味盛行さん 八重泉酒造 代表取締役

太鼓判押します!

金城製麺所は地元で一番大きくて人気がある八重山そばの会社です。私も子どものころからこのそばを食べて育ちました。中学、高校にあがってからは、少し大人の食べ方として、学校から帰ってきてお腹がすいたらおやつ代わりに「からそば」を食べるのが楽しみでした。私の子どもたちも大好きです。これからも世代を超えて受け継がれていくことを願っています。