世界経済を半導体産業が牽引している。世界半導体市場統計(WSTS)の予測によれば、2024年における世界の半導体市場規模は約5800億㌦(1㌦=150円換算で約87兆円)に達するという。これは2000年の実に3倍の数字だ。

半導体はありとあらゆる電子機器や家電、乗り物の中核部品であり、人々の生活を支えるまさに社会インフラ。近年、その重要性がさらに高まっている。急速なDXの波、生成AIの登場、量子コンピュータの開発、自動車の電動化や自動運転技術の進展、IoT機器の普及などを背景に、より微細で計算能力に優れたチップや用途を特化した専用チップのニーズが急拡大しているのだ。また、カーボンニュートラル達成に向けて半導体や蓄電池などの技術向上による省力化も急務となっており、もはや半導体関連技術の進歩と関連産業の発展があらゆる社会課題の解決に欠かせない要素となっている。

それだけではない。半導体は国家の安全保障も左右する。コロナ禍やウクライナ侵攻に起因するサプライチェーンの混乱で半導体不足が深刻化、自動車産業を中心に大打撃を受けたことは記憶に新しいだろう。また政治・経済的対立を深める米中間では、アメリカの中国への半導体輸出規制に、中国が報復措置として半導体の材料となる希少金属(レアメタル)の輸出
規制を打ち出す一幕があった。いまや半導体は地球規模のインフラであり、どの国にとっても最重要な戦略物資なのだ。半導
体の自国における生産体制を強化し、複数の国・地域と強固なグローバルサプライチェーンを組む、この課題にシッカリと挑む国が「半導体大国」となる。

こうした状況にあって、日本政府も国内の半導体製造の基盤強化に乗り出している。半導体を特定重要物資に指定し、安定供給体制の構築とサプライチェーンの強靱化につながる投資案件に多額の補助金を拠出したり、大胆な税額控除にも踏み切っている。30年には国内で生産した半導体の売上高を現在の3倍に当たる15兆円まで一気に引き上げる目標を掲げた。

その出だしは好調だ。2021年10月、世界最大の半導体製造受託企業である台湾積体電路製造(TSMC)が初めて日本に工場を建設することを発表、翌年の8月にはトヨタ自動車をはじめとする日本の大手企業8社の出資で、先端半導体の国産化を目指すRapidus㈱(ラピダス)が設立された。こうした動きを皮切りに国内で半導体工場の新増設が相ついでおり、その投資額は29年までに9兆円規模に達するといわれている。

だが、この〝日の丸半導体〟復権への道のりにはさまざまな課題が横たわっている。半導体産業の活況の恩恵が一部の地域や大企業に偏在してしまうのではないか、その経済効果は日本経済を支える中小企業にまで浸透するのか、そしてあらゆる業界で人手不足が深刻化するなか、半導体産業の人材不足をいかに解消し、現場人材や高度人材をどう育てるのか。さっそく
検証してみた。

(つづきは誌面で‼)