けん玉を軸にした新たな挑戦で、潜在ニーズを掘り起こす

けん玉を50年近くにわたって作っている㈲山形工房は、コロナ禍を経て新しい事業にも挑んでいる。そのひとつがけん玉講座のオンライン化だ。それまでもけん玉の普及活動として対面式で講座を開いてきたが、コロナ禍で継続が難しくなり、その代わりにリモートで受講できる仕組みに変更した。また、感染予防で遠方の孫に会えない高齢者向けに名入れのけん玉を開発し、贈答需要の掘り起こしも推進。さらに、世界的なスポーツ用品やアウトドア用品、自動車のメーカーなどとコラボし、企業のロゴを印字したけん玉も成長分野として展開している。そのほか、けん玉の材料として主にサクラ、ブナ材を使っていることに目をつけ、端材でくん製用チップを作ることにも挑戦。カエデ、タモ材も用いていることから、木製バットの製造にも手を伸ばしている。

こうした展開について、梅津雄治社長(38歳)は「けん玉作りで培った技術を生かし、あらたな需要を喚起していきたい」と話す。なかでも木製バット事業については「東北地方は木材の供給拠点でありながらバット工場がないと聞くので、将来的には東北発のバットとして東北のプロ野球、社会人・大学野球に根づかせたい」と抱負を語る。

木製バット製造の新事業も
「けん玉の可能性を広げたい」と話す梅津社長

「一家に1個はけん玉」、少子化でも伸びる販売実績

同社のけん玉は0.1mm単位で設計・製造されるなど精密加工ではナンバーワン、右に出る者がいない。事実、国内製のけん玉で唯一、競技用けん玉として日本けん玉協会の公認を受けている。フランスの「ビ ル・ボケ」がルーツといわれるけん玉、その競技には3万種ともいわれる技があり、それらすべてに対応するには正確無比な構造が求められるという。「玉の形がわずかでもいびつだったり、取っ手の乾燥が不十分で生乾きだったりすれば協会の検定には合格しない」と梅津社長。けん玉は近年、認知症予防や脳の活性化など健康玩具としての評価を高め、同社の販売実績は少子化の逆風を受けながらも堅調に伸びている。山形県長井市は同社のお膝元とあってけん玉が盛んで、同社も毎年、小学校の新入生を対象にけん玉を1個ずつプレゼントしており、市民の間では「一家に1個はけん玉がある」のが当たり前になっている。また、市もけん玉を「市技」として認定し、普及をバックアップしているほか、地元商店街もけん玉の技に成功すれば商品を贈るイベント「けん玉チャレンジ」を開き、地域全体でけん玉によるまちおこしに取り組んでいる。

「地元住民に愛されつづけることを大切にしながら、けん玉の可能性をさらに広げていきたい」と将来展望を描く梅津社長。まさに日本が誇るオンリーワンのモノづくり企業である。

国内製で唯一、けん玉協会公認
加工技術の高さは折り紙つき

酒井 修さん
(公財)やまがた産業支援機構経営支援部長

競技用けん玉の生産に関して、長年にわたって不動の地位を守りつづけている㈲山形工房。玉の色、デザインなど、社内アイデアのほか、多種多様なブランドからもオファーがあります。同社のギャラリーには約 1000 種類のけん玉が並び、見ているだけでも楽しくなります。当初は木製玩具・民芸品製造からスタートした同社ですが、現在は、競技用けん玉を主力としながら福祉用けん玉、さらにはバット製造にも取り組むなど、つねにチャレンジしつづける企業です。