「持続可能な社会」づくりを実践できるのが、「くまはぎの薪®」

ツキノワグ マがスギの内側の甘皮をなめ、樹皮が剥ぎ取られることを「ク マ剥ぎ」とい い、被害に遭 っ た木材は枯死することが多く、建築商材としての価値が下が っ てしまう。この被害が後を絶たない石川県白山市で、あえてクマ剥ぎ材を加工し、「くまはぎの薪®」として商品化したのが(株)桑木だ。本業は枝打ちや間伐と い っ た山林の管理代行だが、コ ロナ禍以降はこのくまはぎの薪®がキャンプ用に重宝され、ふるさと納税返礼品としても好評だという。現在は 「くまはぎ®のバイオ炭」として有機農法に活用するなど、あらたな販路づくりにも力を入れて いる。

そんな同社の森田臣社長(42歳)はもともと東京・西多摩でクラフト古紙再生業を営むかたわら、バイオマス燃料を自社で製造。その供給量を増やしたい、と林業に転じ、現在の事業を承継したという。なかでもくまはぎの薪®は昨年のソーシャルプロダクツ・アワード2023で「『持続可能な社会』づくりに生活者が参加できる商品・サービス』を表彰するソーシャルプロダクツ賞を授賞した。この賞のおかげもあってくまはぎの薪®は話題になり、売れ行きも上々。その利益は里山整備に充てている。だが、「薪としてはやや高価で大量供給できない。テーブル天板などに使える部分もある」と、現在は廃材の使途を模索中だ。

木が腐り枯死する可能性の高いクマ剥ぎの痕跡
クマ剥ぎのスギを長さ40センチほどにそろえた「くまはぎの薪」

バイオ炭で広がる、持続可能な次世代の森づくり

さらに同社ではクマ剥ぎ材を使ったバイオ炭の可能性も模索している。バイオ炭とは、生物活性化や環境改善に効果のある炭化物のこと。廃材や食品廃棄物などの有機物を炭化し、農地や林地、公園緑地に埋設することで温室効果ガスの吸収・抑制効果があるという。「農家がバイオ炭を農地に撒いてコメを育てることでカーボンクレジット(CO排出権)を得られるし、環境貢献度で評価され利益にもつながる」と森田社長。まさに環境に優しいリサイクルのプロならではの視点だ。

今後は「農家と組んで、林業の収益化をはかり、雇用を生むビジネスモデルをつくりたい」と森田社長。そして「廃材や食品廃棄物などでつくったバイオ炭を有機肥料として農家に販売するなどして、肥沃な畑づくりに貢献していきたい」と力強い。また、「欧州などでの日本酒人気を捉え、酒米農家とタイアップして海外向けにブランディングしていきたい」と将来を見据えている。

「林業が農業と組み、新しいビジネスモデルを」と話す森田社長
持続可能な森林経営を目指す同社の杉田雅英会長(左)と山林を背に

北 渡さん
(公財)石川県産業創出支援機構石川県事業承継・引継ぎ支援センター
サブマネージャー

森田社長が今後の成長分野として林業の買収を検討し、同社を承継されました。当センターはそれを支援いたしましたが、その際、森田社長は短期的な成果だけでなく5 年、10 年先を見据えた長期的な視点を強調し、林業の現場や業界団体などの理解を得ようと石川県へと何度も足を運び、承継にいたりました。今後も、森田社長のあらたな発想による経営には大いに期待したいと思います。