あまった畳の縁(フチ)を自販機で販売し、人気商品に

畳表の原料である「いぐさ」 といえば、全国生産量の約9 割を占める熊本県が有名だが、実は戦国時代から江戸時代初期にかけては、琵琶湖畔の湿地帯が一大産地だった。江戸の世に入り、神社仏閣、武家屋敷、大店と、まちが急速に発展していくなかで近江商人が特産の畳表を全国に広めたのだ。その滋賀県で、畳の魅力発信に取り組んでいるのが㈲上又畳産業だ。

同社は1956年の創業から、2000年頃まで畳の床(土台)のメーカーとして事業を展開してきたが、畳の需要縮小にともない、00年ごろから畳表や縁をつける工程を含め、畳製造を一貫して手掛けるようになった。3代目の上田高士社長は「昔は1軒、家が建てば30枚は畳の注文があったが、今は和室が激減。1枚も畳がない集合住宅も多い」と話す。そんな消えゆく畳の良さを多くの人に知ってもらおうと、上田社長が23年5月からはじめたのが畳の縁の24時間販売だ。

「通常、畳の縁は10畳(1反)単位で取引するが、大抵の和室は6~8畳でつくられる。しかもひとつの柄が2度注文されることはほぼないため、端切れがどんどんたまっていく。この在庫を自動販売機で売ったらおもしろいのではないかと思った」とのこと。そこでさっそく、外装に畳のデザインを施したオリジナルの自販機を店舗前に設置。廃棄予定だった畳の縁をたばこ用の箱に入れて1メートル単位(幅8センチメートル)で販売を開始した。価格は200円で、どの柄が当たるかわからない「ハテナ」を含めて10種類を陳列。売り切れたら数百ある在庫のなかから、新しい柄を補充する。

これがメディアでも取り上げられて人気商品に。ひとりで8000円分も購入してくれたお客さんや〝縁で鞄や小物をつくった〟といって作品を見せに来てくれた方もいた。洋柄が売れるのかと思っていたが、昔ながらの和柄が人気で意外だった」という。

畳の縁の在庫は、洋柄から和柄までさまざまある
「花道や茶道の愛好家を突破口として、海外の畳の需要も拡大していきたい」と話す上田社長

畳コースター自販機で、畳の魅力を発信!

そして2024年4月には、第2弾として「手づくり畳コースター」の販売を開始。坂本観光協会の協力を得て、地元の観光名所「旧竹林院」の駐車場に自動販売機を設置した。「コースターのサイズは8センチ四方で、従業員らが手作業で裁断やミシン縫いをしている。1個200円で、珍しがってまとめ買いする外国人観光客もいた。この自動販売機をキッカケに〝やっぱり家に和室がほしい〟と思ってくれる人が増えてくれるとうれしい」と上田社長は目を輝かせる。

「旧竹林院」の駐車場に設置された畳コースターの自販機
手づくりの畳コースター。本物の畳表を使用しているため、いぐさのいい香りがする

松尾裕司さん
滋賀県よろず支援拠点

㈲上又畳産業の上田社長から「どうやったら畳の売り上げが上がるか」と相談が寄せられたご縁で、いろいろとサポートさせていただくことになりました。上田社長は本文でも触れられているオリジナル自動販売機のほか、小学校への寄付、コースターの開発などつぎつぎと新しいことに挑戦、マスコミに取り上げられたことで大きな話題になりました。これからも同社の「畳文化を普及したい」という思いを陰ながらサポートしたいと考えています。