職人技に直に触れられる県内唯一の染物店、新ブランドに注目集まる

創業以来150年以上にわたって、「印染め」の技法で鹿児島県伝統的工芸品に指定されている大漁旗や五月幟などをつくりつづけてきた亀﨑染工㈲。昨春には築年の古民家を改装し、染め体験や工場見学もできる店舗「亀染屋」をオープン。製作現場が見られる県内唯一の染物店とあって人気も高く、最近では印染めを生かしたインテリア商品もお目見え。伝統を守りながら、裾野を広げる新分野に挑戦している。

織物に文字や紋章、マークなどを染めつける印染めは手で染めることで柔らかな線や色など独特の風合いを生み、船の大漁旗のほか、幟、法被、暖簾などの染色で重用されている。大漁旗や幟は結婚・出産祝いや開店、入学、還暦祝いなどに記念品として使われるケースが増えており、「大漁旗をベースに新しいものをつくっている」と5代目で印染師の亀﨑昌大社長(51歳)は話す。その代表的な技法は、白く残したい部分に糊をつけて砂をまぶしたり、型を置いて色ごとに刷毛で染める「引染」、色ごとに型を作って一色ずつスキージ(へら)で染める「捺染」などがある。

亀染屋という屋号は約10年前、「少子化で五月幟などの注文数は減るだろう」と判断した亀﨑社長が需要開拓のため立ち上げた小売ブランドだ。名刺入れやTシャツなど数あるアイテムのなかでも、風呂敷や手ぬぐいなどを縫い合わせた「あずま袋」が人気で、大ヒットアニメ『鬼滅の刃』で注目された市松模様や龍柄、無地(12色)などバリエーションが豊富なことも人気に。「祝の印」という新ブランドや「額入り鯉のぼり」もアイデア商品として注目を集めている。

亀染屋は本社隣接(写真右側)の古民家を改装して誕生
ほかでは体験できない染め体験に熱中する外国人ら

海外からの受注に好感触、印染め製品でインテリア業界へも進出

一方、インバウンド需要復活とと もに海外市場も見据え、染め体験などができないのか、と県の観光連盟や旅行会社に働きかけている。染めの製品については、香港からの受注に加え、米ニューヨークにも納品予定で、今春はヨーロッパへのアプローチもスタートした。亀﨑社長は「好感触なので期待できる」と気を引き締めている。

あらたな商品展開にも期待が寄せられている。そのひとつがインテリア業界へのアプローチだ。職人が手作りで染め上げた布を板に貼り付けたファブリックパネル、照明電球を布で覆ったランプシェードなどを準備しており、7月に福岡で開催される家具展示会のインテリア部門に出展するという。創業以来5代にわたって印染めを守り、時代を映した意匠を創る亀染屋。その真骨頂はチャレンジ精神にあるようだ。

「印染めの技を守り、文化を伝えてきたが、今でもデザインの基本は大漁旗」と話す亀﨑社長。自身も職人として腕を振るっている
色鮮やかな伝統意匠の幟や額入り大漁旗・鯉幟

木下和代さん
(公社)鹿児島県特産品協会ブランド支援センター
企画開発課長

亀﨑染工は鹿児島県指定伝統的工芸品である「大漁旗」「五月幟」で唯一指定を受けており、「印染め」の伝統技法を守りながらインテリアや日用雑貨として新商品を開発したり、ミニ大漁旗の染め体験などで「印染め」の認知度向上に取り組んでいます。「2023 かごしまの新特産品コンクール」では、手染め部分と染めない部分との輪郭・グラデーションが 美しい照明「kagerow」で鹿児島県知事賞を受賞しました。これからも現代のラ イフスタイルに即した商品開発など、今後の活動に期待しております。