開発に足かけ4年、脊椎インプラントで社会課題を解決

日本人は一般的に欧米人と比べて骨が弱いといわれ、とくに高齢者は背骨に骨粗鬆性椎体骨折や腰部脊柱管狭窄症になるリスクをかかえている。その有効な対策として国内の脊椎外科現場では、これまでもスクリュー状のボルトを脊椎に埋設して背骨を固める脊椎固定術が行われてきたが、従来の脊椎インプラントは背骨を連結する節と節を固めるため、合併症を発症して痛みが再発する可能性が高く、再手術に踏み切らざるをえないことも多い。こうした課題を解決しようと、医療系スタートアップ企業の㈱スパインクロニクルジャパンは新しい脊椎インプラントを足かけ4年で開発した。この新型脊椎インプラントは、骨を補強する骨セメントを充填した後に、開発した専用の2本のチタン合金製スクリューを組み込んでいるのが特徴。

米澤則隆社長(38歳)によると、開発インプラントは背骨を連結固定しないで脊椎を安定化することが可能になる製品で、それにより痛みの再発や重篤な合併症の発生リスクを軽減させることを目指している。現在は来年度中の薬事申請の完了、2027年の保険収載・実用化を目指し、製品の試作・開発における非臨床試験データを積み重ねているところだ。

脊椎インプラントで背骨を固定するイメージ図
脊椎インプラントを埋め込む手術

革新的な脊椎外科治療を日本から世界に

米澤社長は元は整形外科医だったが、医療器具の多数が海外で開発され、日本が開発後進国に甘んじている現状に危機意識を抱き、「脊椎プラントも骨の強い欧米人向けにつくられていて、日本人には向かない。日本の高齢者にも対応できるメイド・イン・ジャパンの器具を生み出そう」と一念発起、スパインクロニクルジャパンを起業した。以後、整形外科医としては月に2回程度、手術を担当するにとどめ、主に製品開発と経営に専念、現場医師らでアイデアを持ち寄ることで、ついに画期的な新型インプラントの開発を実現させた。

だが、米澤社長の話では、新型インプラントを国内で開発・製造し承認を目指しているが、まだまだ課題は多いという。治療機器の製品を完成させ、薬事承認を得るには、有効性と安全性を実証するために多くの資金が必要で、数々の課題を解決しなければならない。「将来的には日本だけでなく、世界の高齢者が低侵襲(低負担)で安全な手術を受けられるようにしたい、日本から世界の高齢者の脊椎疾患を救うことができる脊椎治療デバイスを実現したい」と夢を追う。

「純日本製で医療デバイスをつくりたい」と語る米澤社長
医師一家の米澤家

川端洋平さん
(公財)石川県産業創出支援機構 成長プロジェクト推進部
産学官金連携支援課主任

㈱スパインクロニクルジャパンは、国内外のピッチイベントやアクセラレータープログラムに積極的に参加してきた医療系スタートアップ企業です。当機構の「いしかわアクセラレータープログラム」では、資本政策、資金計画の考え方、投資家対応などを学んでいただき、ベンチャーキャピタルからの資金調達に成功しました。今後も石川を代表するスタートアップとして活躍していくことを大いに期待しています。