ビールで尾道をアピールしたい、千葉から移住の夫婦が醸す

瀬戸内海の温暖な気候にめぐまれ、多くの島をかかえる広島県尾道市は、かんきつをはじめとする果物の一大産地として知られる。この地でクラフトビールを醸造する尾道ビール㈱(尾道ブルワリー)は地元の特色を生かそうと、すべてのビールに地元産の果物などを副原料として使っている。定番銘柄は「尾道エール」と「しまなみゴールデンエール」。尾道エールは香りがさわやかでみずみずしいグリーンレモンと、酸味と香りのバランスがいいイエローレモン、果汁が甘くてまろやかな完熟レモンの3種あり、季節に応じて造る種類を変えているという。しまなみゴールデンエールは地元発祥の石地ミカンを用いたエールビールだ。ほかにも岩子島産トマトのヴァイツェン、因島産ハッサクのホワイトエール、向島産ショウガのジンジャーエールなど、バラエティーに富んでいる。

同社がメイド・イン・尾道にこだわるのは、佐々木真人社長(62歳)と真理専務(60歳)の夫妻の「ビールで尾道をアピールしたい」 という強い思いからだ。ふたりは脱サラで千葉県から移り住み、築130年の古蔵を改築してブルワリーを開業した。「地元の果物をビールに取り入れれば果物の知名度も上がり、果物そのものの出荷量も増す」と真人社長。「ビールは尾道に来て味わってほしい」ため、納品先は地元の宿泊施設や飲食店などにほぼ限定。「ビールはふたりの手づくりなので生産量はかぎられるが、事業規模の拡大には走らず、丁ねいな仕事を地道に重ねていきたい」と話している。

ビールの副原料となる地元産レモン
定番商品の尾道エール(左)としまなみゴールデンエール

丁寧な仕事で受賞歴多数、一度は味わいたいクラフトビール

夫妻がビール造りでもっとも心がけているのは、清潔さの確保だ。ビールはアルコール度数が低く、雑菌などの影響を受けやすい。そのため「タンクなどの製造設備を分解し、部品一つひとつを洗浄する作業を頻繁に繰り返す」という。こうした仕事ぶりが品質の向上につながり、同社のビールは「インターナショナル・ビアカップ2021」などで10回以上も入賞しており、なかでも岩子島トマトヴァイツェンは製品化から半年で銀賞を射止めた。サイクリング観光などでにぎわう尾道市の島々。アイランドホッピングを楽しむ際にはぜひ、島々の恵みを詰め込んだ高品質なクラフトビールの数々を味わってみてほしい。

「ビールで尾道をアピールしたい」と語る佐々木夫婦
ブルワリーは古蔵を改築

川原一展さん
まるか食品㈱ 社長

弊社は「イカ天瀬戸内れもん味」などの酒のツマミを販売しており、尾道ブルワリーのビールとおつまみのセットなど、コラボ商品もあり好評です。佐々木さんご夫妻は私の出身大学の先輩で、友人の紹介で出会いました。おふたりは移住後に地域のさまざまな人たちと関係を紡いでおり、今や地元の私より顔が広いくらいです。地域に根差し、地域の素材を生かしたビールづくりで、尾道を代表するブルワリーとして存在感を発揮しています。今後のさらなる活躍も期待しています。