伝統の尾州織物を陰で支える!

愛知県一宮市を中心とする尾州地域は、古くから毛織物(ウール)製造が盛んで、イギリスのハダースフィールド、イタリアのビエラと並んで「世界三大毛織物産地」に数えられる。その一宮市で、繊維染色整理機械の設計・製作から保守・メンテナンスまでを専門に請け負っているのが浅野鐵工㈱だ。

後継者の浅野領仁氏によれば「織り機・編み機でつくられた直後の反物(原反)には、糊や油などがたくさん付着している。そうした汚れをきれいに落として、指定された色に染め上げたり、風合いを整えたり、商品として流通できる生地に仕上げるのが染色整理の工程だ」という。

同社の創業は1939年、戦時中は軍需の機械部品などを製造していたが、戦後に繊維機械部品を手掛けるように。その後、大手染色整理会社と専属契約を結び、機械設備の設計・製作から設置・保全までを一手に引き受けた。しかし、繊維産業の衰退により、50年以上つづいた専属契約を解除。2010年頃から、尾州エリアの中小規模メーカーを中心に広く繊維染色整理機械の修理・メンテナンスを請け負うようになった。「日本全体で繊維産業が急速に縮小するなかで、尾州の織物産業も往時の10分の1程度にまで縮小してしまった。しかし、今なお残っているメーカーは本当に優れた技術を有しているところばかりで、そうした企業の仕事を陰で支え、伝統文化を守っている自負がある」と浅野氏は胸を張る。

修理にあたる染色整理機械は、人の背丈をゆうに超える大型のものが多い
以前は自動車メーカーに勤務していたという浅野領仁氏

独自の技術力を問題解決・製品開発に活かす

そんな同社の強みは、やはり「専属工場」時代に鍛えた技術力だ。交換部品も自社で製造し、電気配線工事も社内の人材が対応。半世紀以上にわたって繰り返し改造されたことで設置時の図面とまるきり変わってしまっているような機械を、工場の稼働を止めずに週末の2日間で修理する。「浅野さん以外に頼めるところがない、といってくれるお客さまが多く、ほぼ毎週末、各地の工場で作業にあたっている」という。

そして近年は、本業で培った技術力を製品開発に転用。たとえば、分厚く重量のある原反を自動で縫い合わせる「原反継ぎ用自動走行ミシン」や養豚場の汚水浄化槽の「酸素濃度自動制御装置」を開発した。「顧客のお困りごとに合わせて、オーダーメイドで製品を造れるのが当社の強み。とくに環境分野のニーズは今後も増えていくと予想されるので、染色整理機械の修理・保守業をつづけながら、新しい製品づくりにどんどんチャレンジしていきたい。かつて30人近くの従業員がいた頃の工場の活気を取り戻すことが目標」と浅野氏は意気込んでいる。

省エネ化に貢献する汚水浄化槽の「酸素濃度自動制御装置」
展示会でも注目された自動走行ミシン

(公財)あいち産業振興機構

浅野鐵工㈱はかつて大手繊維染色整理企業の専属工場として事業を行っていましたが、現在は取引先を拡げ、繊維機械の設計・製作から修理や改造、メンテナンスを行い、自社製品も展開しています。 85 余年の業歴で培われた確かな技術力に加え、つねに取引先に寄り添いニーズに応えるスタイルが、高いリピート率、取引先との強固な信頼関係の構築につながっていると思います。取引先の問題を数多く解決してきた同社は「あいちの注目企業」であり、さらなる事業の発展を期待しています。