コロナ禍に超難削材の精密加工にチャレンジ

2024年夏、ケネディー宇宙センターからスペースX社の商業用打ち上げロケット「ファルコン9」が打ち上げられ、8月末には小型人工衛星キューブサットがISS(国際宇宙ステーション)から軌道上に無事、放出された。その成功を祈る人たちのなかにMASUYAMA-MFG㈱のメンバーがいた。それもそのはず、キューブサットの直方体の筐体(ボディ)は益山明子社長( 58歳)を含めた4人の社員の手によるものだったからだ。

同社が得意とするのは精密機器に使われる金属部品の3次元加工だ。ワイヤー線に電流を流し加工物を溶融させながら切断するワイヤー放電加工機やマシニングセンタ(自動工具交換機能付きNCフライス盤)を保有しており、3次元 CAD/CAM(コンピュータによる設計・製造)とともに、すべての工作機械を「私を含め、社員全員が使いこなせる」と益山社長は自負する。宇宙産業分野では小型人工衛星の筐体のほか、ISSで使われる部品や月面探査ローバー探査車)の部品開発を担う。

同社が宇宙産業に参入したのはわずか3、4年前のことで、コロナ禍前は中国市場向け自動車関連部品が受注の70%を占めていたという。だが、「米中貿易摩擦の激化で部品の現地調達がすすんで受注が激減。コロナ禍の影響もあり、仕事がほぼゼロになった」という。だが、この状況が発想の転換につながった。「宇宙産業なら安全保障の観点から、おいそれと海外に生産拠点を移せないはず」と考えたのだ。そして、仕事激減で使用されていなかった機械を使い、ロケットエンジンなどに利用され、耐熱性・耐食性に優れた超難削材のニッケル合金「インコネル」の精密加工にチャレンジ。その努力が実を結び、宇宙関係のエンジニア集団である㈱たすく(東京都杉並区)と連携して宇宙航空研究開発機構(JAXA)にISS内の顕微鏡部品などを納入。さらに冒頭で紹介したように人工衛星などの部品も手掛けられるまでになった。「まだまだ燃料電池や半導体製造装置、産業機器の部品加工がメインで、宇宙産業機器の売上高は15%程度にとどまっているが、2年以内に30%にまで引き上げたい」と益山社長は意気込んでいる。

社員全員が3次元 CAD / CAMを使いこなすという
超難削材のニッケル合金「インコネル」の加工サンプル

造形サンプルの公開で技術力をアピール

そんな思いを胸に、同社は 21年に発足したとっとり宇宙産業ネットワーク(鳥取県)に参加し、鳥取砂丘の月面実証フィールド「ルナテラス」での実験にも参加。また毎月、社員が設計加工した造形サンプルをSNSにアップし、技術を広くアピールしているという。「メンバーは同じ方向、同じ夢を見ている」と話す益山社長。少数精鋭ながら最先端技術をギュッと詰め込んだ、まさにキューブサットのような企業である。

「メンバーは同じ方向、同じ夢を見ている」と厚い信頼を寄せる益山社長
ネジなど使わず、はめ合いで組み立てられるロケットの金属模型

井田広之さん
鳥取県 商工労働部
産業未来創造課 宇宙・起業支援チーム課長補佐

鳥取県は、地域の未来を担う産業のひとつとして宇宙産業の創出に取り組んでいます。そのなかでMASUYAMA-MFG の益山社長は持ち前のチャレンジ精神と熱量の高さで、率先して県外の宇宙関連企業とつながり、あらたに宇宙ビジネスの扉を開かれました。同社は高度な金属切削加工技術を生かし、小型人工衛星など宇宙関連機器の製造に関わっています。今後も、鳥取の宇宙産業をリードするモノづくり企業としてのご活躍を期待しています!