「特殊配管技術」や「表面処理技術」など中小企業が
独自の知見と技術を駆使して水素関連産業に参入‼
また、重工メーカーやエネルギー事業者などのカーボンニュートラル燃料関連の研究・開発や投資も活発化し、日本における水素社会構築に向けた機運が高まっている。
では、日本の企業全体の99㌫以上を占める中小企業は、どれだけ水素関連ビジネスに参入できているのだろうか。近畿経済産業局が今年2月にまとめた「令和5年度 水素関連産業への新規参入に係る参入障壁調査」の報告書によれば、今後、日本における水素サプライチェーンの構築と強靱化を実現するには「部素材の供給源である中堅・中小企業の水素関連産業への新規参入を増やし、水素関連産業の裾野を広げていく」必要があるが、法規制やインフラの未整備、市場規模が小さいことなど、ビジネスと保安の両面から、まだまだ参入事例が少ないのが現状だという。
だが、こうしたなかでも将来を見据えて水素関連産業への参入に乗り出している中小企業もある。さっそく、実例を紹介したい。
㈱テクノウェル
特殊配管技術で水素エネルギー社会を牽引
中小の工場から巨大なプラントまで、製造業に必要となる液体や気体、エネルギーをモノづくりの現場に送り込むには、通り道である〝配管〞が欠かせない。
そして、その配管のなかを流れるものが特殊であればあるほど、それに対応した特殊な配管加工技術が必要になってくる。山口県柳井市の㈱テクノウェルは、そうした特殊配管の設計・施工やプラント製造で業界をリードする企業である。
とくに半導体特殊材料ガスや抗体医薬品、ワクチンをはじめとした医薬品製造分野において、国内のみならずタイやベトナムなど東南アジアでの豊富な施工実績を誇る。
そんな同社が超高圧水素を充填する「水素ステーション」の心臓部であるメインユニットの製造にチャレンジしている。「水素ステーションには特殊配管の技術が欠かせない」と話すのは自身も技術者である伊ヶ﨑哲成社長(57歳)。
「水素は運ぶ際に漏れやすく、水道圧の410倍もの超高圧で充填される。そのため、当社では半導体製造に使う窒素のほか、シランやホスフィンなどの特殊ガス配管の設計・施工で培った技術をもとに、貯蔵・充填のためのコンプレッサー、蓄圧タンク、制御バルブをパッケージ化したメインユニットを完成させた」と胸を張る。
とはいえ、現状では燃料電池車(FCV)は高価であることからなかなか普及せず、水素ステーションも2023年1月時点で全国に164カ所とまだまだ少ない。 だが「いずれ商用車にFCVが導入されはじめれば、水素エネルギーが産業界の主軸になる時代が来る」と伊ヶ﨑社長。
そのときに備え、はやくも同社では「装置事業部」を新設し、薬液供給や充填などを自動制御するソフト開発にも全力をあげている。
初の試みとなるユニット1号機を名古屋市に導入したほか、昨年10月には北海道千歳市の工業団地に土地を購入し、25年10 月の工場稼働を目指している。
「エコな水素燃料をハンドリングするユニットを世に出した実績は『おもいやりにあふれた、ひと・ものを創る』という企業理念に合致するプロジェクトであり、当社の誇りでもある」と伊ヶ﨑社長は話す。
最近では、タイからも水素関連の相談がきているとのこと。今後はこの水素でグローバル展開ができそうだ、と全社をあげて取り組んでいる。
オロル㈱
水素脆化抑える被膜処理開発プラント鋼材の選択肢広げる
カーボンニュートラルの達成に欠かせないといわれる水素エネルギーだが、水素はエネルギー効率が高く、圧倒的な優位性を誇る一方、最小の分子であるために金属材料に侵入してもろくする「脆化(ぜいか)」を引き起こす側面がある。
このため水素関連のプラントや配管などの鋼材には、一般的に出回っているステンレスSUS304ではなく、耐食性に優れたステンレスSUS316Lが用いられているが、これは素材的に強い半面、高価で加工しにくいのが難点だという。
この課題に長年培ってきた表面処理技術で挑んだのが、鳥取県鳥取市のオロル㈱だ。比較的安価で加工性も高いステンレスSUS304の弱点を克服する研究をつづけ、ステンレスの防食・耐久性を高める表面処理技術「ハイドロル処理」を世界で初めて開発、今年5月に特許を取得した。
ハイドロル処理は水素をバリアする被膜処理をステンレス表面にほどこし、水素の金属への侵入をブロックして脆化を抑える処理技術で、劣化しやすい溶接部への処理も可能。
木下淳之社長によれば、これにより「ステンレスSUS304の耐食性が2倍以上もアップし、ステンレスSUS316Lに肩を並べる性能となった」という。安価で加工しやすいステンレスSUS304の優位性が高まったことで水素関連の鋼材の選択肢が広がったのだ。
ちなみにこの技術開発には、同社独自の「オロル処理®」という技術が生きている。オロル処理®とはステンレスの表面を発色性のある素材で酸化被膜し、ステンレスに色づけする技術だ。
被膜の厚さは最大300㌨㍍(ナノは10億分の1)まで可能で、耐食性を高めることができる。ハイドロル処理はこのオロル処理の応用で、電機通信大学や産業技術総合研究所、鳥取県産業技術センターと共同研究を行い、水素製造大手の岩谷産業からもアドバイスを得て開発したものだという。
現在は産業技術総合研究所出身の柳下宏氏を技術顧問として迎え入れ、実用化に向けて研究を重ねている。
高度な技術があれば、地方の中小企業でも水素エネルギー産業に参入できる、同社にはぜひそれを証明してほしいものだ。
〈企業データ〉
㈱テクノウェル
●山口県柳井市余田1345-1(柳井工場)
℡0820-23-3817 https://technowell.co.jp/
設立1985年、従業員62名、資本金2000万円
オロル㈱
●鳥取県鳥取市南栄町1
℡0857-51-0608 https://ororu-inc.co.jp/
設立2018年、従業員12名、資本金1000万円