鮮度保持期間を延ばす、特殊技術「窒素水」

全国一の水産物水揚げ量を誇る北海道釧路市で、地元の冷凍装置メーカーの㈱昭和冷凍プラントが開発した特殊技術「窒素水」が「食材の鮮度を保つ効果がある」と注目を集めている。窒素水とはその名の通り窒素を高圧で注入した水。これを凍らせて氷にし、鮮魚などの保存に用いる。注入過程で酸素がはじき飛ばされて酸化を防ぎ、通常の氷では3日間程度といわれる鮮度保持期間が5日間くらいまで延びるそうだ。

同社の若山敏次会長(76歳)によると、この氷の開発のアイデアはポテトチップスの袋から得たという。袋には窒素ガスが充填され、中身のチップスの酸化を防いで品質を落とさずに長期保存を可能としている。これに着目し、窒素水の製氷システムの開発に乗り出したのだ。その開発過程では、窒素水の氷が通常の氷に比べて香りがまろやかになるという副次的効果も判明。「酒や清涼飲料水を割る氷に打ってつけという思わぬ付加価値も発掘できた」という。さっそく、若山会長がこの氷を水産業者に売り込んだところ瞬く間に評判となり、地元の大型製氷施設のほか、今では鮮魚を取り扱う東京都中央卸売市場豊洲市場など全国の卸売市場に出回っている。

窒素水製造システム
ユニークな技術を世に送り出す昭和冷凍プラントの若山会長

「食べられる保冷剤」ユニーク製品も強み

さらにもうひとつ、同社ではユニークな自社製品を開発している。「食べられる保冷剤」がそれだ。これは若山会長の妻で同社社長の聖子氏の「低温状態のまま長持ちする特性を持つ海藻を保冷剤として生かしてみてはどうか」というアイデアが元になって開発された製品だという。細かく刻んだワカメやすりおろしたナガイモなどを冷凍し、それらをパッケージングして保冷剤として応用。この「食べられる保冷剤」を発泡スチロール箱の底に敷き、そのうえにイクラやウニ、ホタテなどを載せたトレーを置き、ふたをして出荷する。「保冷効果は0~6度の適温を3日間保持できるとあって申し分なし。保冷剤としての役目を終えたら食材として食べられるので一石二鳥だ」と若山会長は胸を張る。同社と取引のある道内の水産会社がこの技術をつぎつぎと取り入れ、ウニなどの海鮮を道内外に出荷しているそうだ。

こうした同社の技術は国内だけでなく、海外からも注目され、中国や韓国などからの引き合いが多いという。海外も視野に事業規模を一気に拡大したいところだが、若山会長は「うちは従業員10人台の小さい会社。事業規模を急拡大しても生産体制が追いつかない」とあくまでも慎重、「身のたけにあった事業展開を心がけ、堅実経営をつづけたい」と話している。

「食べられる保冷材」もデビュー
堅実経営を目指す昭和冷凍のロゴ

加藤 超さん
行政書士法人加藤事務所
特定行政書士

食品業界では、時代の変遷とともに衛生管理や生鮮食品の鮮度保持などのニーズが高まり、昨今ではさらにフードロス削減やCO₂ 削減などあらたな要請も加わってきています。こうしたなかにあって、同社の鮮度保持技術はまさに時機を得たものであり、SDGs な社会の実現に大きく貢献しています。また、同社は道東地区において経済産業省の地域未来牽引企業にも選定されています。独自の技術と製品によるますますの躍進を期待したいと思います。