木くずや端材を有効活用、飽きのこない風味で差別化も

総務省の旗振りで2009年度にはじまった「地域おこし協力隊」制度。対象の市町村は全国に広がり、23年度の隊員数は国内で約7200人に上っている。なかには隊員みずから事業を起こすユニークな「起業型」を導入している受け入れ自治体もある。北海道厚真町もそのひとつ。「隊員が任期後もその地に住みつづける定住率が7割を超え、全国でも上位の高さを誇っている」と町の関係者も自慢する。この制度で22年度に隊員になり、同年に町内に燻製工房Thmey(とまい)をオープンさせたのが山下裕由氏(35歳)だ。ナッツ類や魚介類を自家燻製し、道内で販売している。

カシューナッツはカンボジアなどから輸入し、タコやホタテなどの魚介類は地元の漁師から手に入れている。燻製用の薫材はサクラやカエデなどで、地域の木工作家から作品の制作過程で出る木くずを提供してもらっているほか、シイタケ農家から菌床の原木の端材を譲り受けている。さらには「北海道特産の果物ハスカップの木の小枝も使っている」という。

燻製の製法は、炭でチップを燻って香りづけする伝統的なやり方。近年は燻製感を重めに出すメーカーが多いが、「あえて軽めに抑えて飽きのこない風味に仕上げている」と差別化をはかっている。製品は町内の小売店に卸したり、オンラインで販売している。消費者からは「燻製本来の香りがして、素材の甘さも良く引き出されている」と好評だ。

伝統的な製法にこだわるナッツの燻製
燻製商品は海産物も

民泊施設経営の将来ビジョンも

山下氏は小樽市出身。20代から30代にかけてカンボジアにわたり、医療系のNGOに勤務した。帰国後、北海道一周旅行をした際に道内産の燻製と出会い、そのうまさにホレ込んだという。さっそく「燻製業を営みたい」と起業型の地域おこし協力隊員に応募、採用された。

山下氏は昨年、町内の古い木造別荘を取得。民泊施設にリニューアルし、燻製料理とお酒を楽しめる宿のオープンに向けて準備をすすめている。隊員の任期は残り1年だが、「自分を成長させてくれた厚真町に恩義を感じている」と迷わずに定住の道を選択し、独り立ちに向けた準備を進めている。

起業型の地域おこし協力隊で燻製工房をはじめた山下氏
あらたな工房と宿泊業の拠点となる施設

小松美香さん
厚真町 まちづくり推進課政策推進グループ

人口約 4200 人の厚真町で多様な人材が起業し、彼らによる事業連携もつぎつぎと生まれてきています。たとえば林業分野では、川上の木を植えて伐る人から川下の加工する人、そして木くずを資源として活用する山下さんまで事業が連なり、それぞれが少しずつ成長しています。山下さんが手掛ける燻製商品は、さまざまな木のニュアンスを味わうことができて香りがよく、お土産としても好評です。ぜひご賞味ください!