鹿沼組子のデザインは海外でも評価
板金加工業の植木鋼材㈱は2021年、自社ブランド「maasa(マーサ)」を立ち上げ、鉄を材料とするアート系製品の開発・製造を開始、お堅いイメージの本業から一転して芸術性の高い新分野に乗り出した。本社のある栃木県の伝統工芸「鹿沼組子」の切り込みをモデルにした鉄製のウォールパーテーション(屏風)やキャンドルケースなどのインテリア系から、ネックレスや指輪などのアクセサリー系まで製品ラインアップは多岐にわたる。いずれも精密な幾何学模様でデザイン性が高く、見る者の目を引きつける。24年にパリで開かれた国際展示会をはじめ、国内外の見本市にも積極的に出展。会場では「鉄をここまで精緻にカットできるのか」と感嘆の声が上がり、話題を集めた、と3代目社長の植木揚子氏(60歳)。
この精緻な造形を生み出しているのが、海外から取り入れた最新鋭のレーザー加工機だ。設計図をミクロ単位で正確に再現できる切断能力を誇るうえ、最薄で厚さ0.35mmの板金もカットできるスグレモノで、植木社長によれば「加工機の価格は従来機の2倍で大きな設備投資になったが、加工能力が優れており、鉄の美しさを表現できる」という。「これだけ高性能な切断機を、本業の板金加工だけに使うのはもったいない」との考えが、アート系分野への挑戦につながったそうだ。顧客企業から発注を受けて設計・加工に応じるいわゆる「受け身型」のビジネスモデルにとどまる本業から、自社開発に力を入れる「自立型」の経営スタイルに転換したい思いもあった。植木社長は「maasaのスタートで個人のお客さまも相手にできるようになり、しかも海外進出も見据えることができた」と話す。
板金加工業とインテリアメーカー、二足の草鞋
このmaasa部門を取り仕切るのは中村英雄事業部長(51歳)。それまで営業畑で培ってきた人脈を生かし、販路拡大に努めている。ここ最近では新築マンションのエントランスの意匠材に取り入れられるなど建築資材としての需要が高まり、インテリアメーカーとしてあらたな一歩を踏み出している。
「maasa事業の成否はデザイン性がカギを握る」と植木社長。地元の外部デザイナーと連携するだけでなく、自社でもデザイナーを新規採用し、デザイン力の強化にも励んでいる。「maasaは誕生したばかりで売り上げはこれからだが、ガラスや陶器など別の素材ともコラボした新製品を開発するなどして、将来的には本業と肩を並べる主力事業に成長させたい」と意気軒高だ。

植木鋼材(株)
栃木県宇都宮市川田町804 TEL:028-633-5225 創業:1962年 従業員:27名 資本金:2400万円
HP:https://www.uekikohzai.co.jp/

高橋英基さん
栃木県よろず支援拠点コーディネーター
㈱植木鋼材は、一人ひとりのチャレンジ精神が旺盛な企業だと感じています。今回の記事で紹介されている自社ブランド商品「maasa」事業部の立ち上げも、自分たちの会社が持つ強みを付加価値 として最大化するためには何をすべきかを模索した結果のチャレンジだと思います。レーザーカッターの加工技術と日本の伝統文様の融合により生まれた商品が、国内外に広がっていくことを楽しみにしています。

月刊『コロンブス』6月号 絶賛発売中!
本記事は地域における〝産業栽培〟をテーマとした月刊『コロンブス』6月号に掲載されています。同誌では毎号、全国12エリアの元気企業・躍進企業の記事を掲載‼ ぜひご一読ください。