レトルト食品が売上の7割、煮付けシリーズが人気

北海道の初夏、脂がのった魚の群れが道東沖にやってくる。10月までつづくサンマ漁はいまがマッ盛りだ。そんな新鮮な北海道の海の幸を水産加工品として全国に届けているのが㈱兼由である。骨まで食べられるようジックリ煮込んだ看板商品「さんまの旨煮」をはじめ、レトルトパウチ包装の魚介類煮付けシリーズが人気を呼んでいる。

「開けてそのまま骨まで食べることができ、常温保存できるため便利で扱いやすい。しかもパウチ包装で捨てやすい点も評価されている。とくに『さんまの旨煮』はナンバーワンの人気」と話すのは濱屋高男社長(44歳)。サンマやイワシを中心に商品開発をすすめ、5年ほど前からホタテ、ホッケ、サバ、サケなどと種類を拡げている。サンマなら醤油味ベースの旨煮のほか、味噌煮、生姜煮、唐辛子ベースの旨辛煮、ゆず塩煮、梅酢煮を加えて7種あり、バリエーションも豊富だ。

ほかの魚も消費者の好みに応じて3~4種の味付けをしているそうだ。いずれの商品も人気があって好評なのは「鮮魚のおかげ」だと濱屋社長。この鮮魚は日本最東端の根室市の漁港で水揚げされたもの。その魚を「目の前の5つの工場で一次処理から加工、保存まで一貫して行い、衛生管理も徹底している」からだ、と。だが、漁場を前に、なぜ鮮魚ではなく加工品なのか。実は「もともとサケマス・サンマ漁を行っていたが、漁獲量が減少。サンマを加工しようと2007年に工場をつくり、レトルト設備も導入した」と濱屋社長。

この間「さんまの旨煮」を商品化して成功したが、15年にはロシアがEEZ(排他的経済水域)でのサケマス流し網漁を禁止。そこで「二次加工のウエートを高めて煮付けをシリーズ化し、現在はレトルト商品が売上高の7割近くを占める」までになった。

 

商品開発拠点の本社工場は漁港すぐ近くの好立地
レトルトパウチ包装の看板商品「さんまの旨煮」

イベントへの積極出展で若いファン急増

そんな濱屋社長の悩みのタネは消費者の「魚ばなれ」だ。歯止めをかけるため「味付けは道民好みの濃い味から薄味に変え、普段から食べやすいようレシピを公開するなどSNSに発信。一般消費者向けのイベントにも積極的に参加している」そうだ。

昨年7月には「ほたてのバジル」がジャパン・フード・セレクションでグランプリを受賞。今年7月には東京・池袋で開かれた「サマーウォーカーフェス」で試食販売し、「酒のつまみとしても若い世代に受け入れられた」と自信を強めた。

最近では北海道沿岸でブリの水揚げ量が増加し、道産ブリのあらたな活用法として「ぶりの旨煮」など4種を新発売。「付加価値を高め、『兼由ブランド』を広めたい」と濱屋社長は意気盛んだ。

東京の展示会では北海道の旬の魚が家庭で味わえると話題に
「高付加価値な商品づくりをしたい」と話す濱屋社長

早川 元さん
㈱マルコシ・シーガル
代表取締役社長

サンマ水揚げ量の激減と流網漁禁止により、原料不足での大量仕入れ・加工モデルの継続が難しくなるなか、㈱兼由は一次加工を縮小し、高付加価値商品へ転換。展示会や SNS を活用し、BtoB・ BtoC 両面の営業を強化し活路を見出しました。2024 年には「ほたてのバジル」がジャパン・フード・セレクションでグランプリを受賞し、開発力、品質、ブランド価値が高く評価されています。