新潟県燕市の金属製品メーカーの三宝産業㈱(丸山啓以智社長)は、業務用の厨房用品を中心に、「YUKIWA」のブランド名でステンレス製品を製造・加工している。とくに強みを発揮しているのは、小ロットから製品のデザイン、サイズの特注にきめ細かに応える完全オーダーメード制だ。極端な話、調理器具のサイズ調整をミリ単位、しかも1個から発注者の要望に応じているという。1964年の東京五輪開催を機に、業務用厨房用品の製造に本格参入。こだわりの強いプロの料理人や首都圏の高級ホテルの細かい要望に応えていくうちに、会社として柔軟で微細な技術力が磨かれていったという。企画営業部の丸山幸一氏は「特注品に対応できる同業者は珍しくないが、ここまで『かゆいところに手が届く』レベルまで応じている企業は、ほかにはないのではないか」と自信を見せる。

同社が手掛ける製品は、ステンレス製の大皿やウォーターポット、調理器具など数百種におよぶ。ときには、ホテルの宴会の演出用として、宮殿や客船の形をした巨大食器の注文が入ることもあるという。ホテルはほかにはない独自のデザインを求めるところが多く、大皿の縁にどんな意匠を凝らすかなど、綿密に打ち合わせをして製品化を目指す。カタログに載っている規格品をベースに、お玉の柄を数㍉短くしたり、金ザルに折り畳み式の取手をつけたりする要望に応えるという。同社は総合メーカーで、デザイン、金型づくり、溶接や研磨を含めた加工全般など、受注から出荷まですべての工程に自社で対応できる。「自己完結で製品化できる体制が、完全オーダーメードに応じられる理由」と丸山氏。「しかも、外注に頼らず、内製化できているので、納期の調整を含めて柔軟に対応できる」と胸を張る。近年は食関係の製品だけでなく、お墓のろうそく立てや花立て、塔婆立てなど、お墓周りのステンレス製品の製造も手掛けている。

地元のトップメーカーに押し上げた丸 山社長

燕市は金属製品製造業の一大拠点で、地元の燕商工会議所には180社近いメーカーが会員登録している。さぞや業者間競争が激しいと思いきや、丸山氏は意外にも「競争にしのぎを削るというより、どちらかというと協力関係にある」と答える。大口の注文が特定の企業に舞い込むと「仲間まわし」によって、溶接や研磨など個別の作業は別業者に割り振り、売り上げが行きわたるようにするそうだ。丸山氏は「伝統的に仕事を分かち合う企業風土が根づいている」と、地域全体で底上げをはかる燕ならではの協力体制を強調している