全国的に農業従事者の減少傾向に歯止めがかからないなか、全国一のみかん収穫量を誇る和歌山県でも高齢化や後継者不足でみかん栽培農家が減りつづけている。県内の栽培農家は2010 年は9000 人を超えていたが、20年以降は6000 人台に。これにともない、例年 11 ~12 月の収穫期には人手が足りず、収穫期を逸して廃棄処分される果実も少なくないという。収穫作業は重労働で、高齢農家の負担になっていることも響いているようだ。こうした現状を打開しようと、県内屈指の産地、下津町では17 年から収穫の担い手を募る「みかん援農」の取り組みをスタートし、今年も担い手を募集している。
援農の実施主体は地元農家らでつくる加茂川協議会で、毎年、収穫期に70 人規模の担い手を公募し、40 軒近くの農家に1 ~5 人ずつ派遣され、収穫、出荷作業を手伝ってもらう。協議会の大谷幸司会長(45 歳)によると、参加者は20 ~30 代の若者が中心で地元の人はほとんどおらず、北は北海道、南は沖縄からと全国から集まってくる。援農時間は主に午前7 時から午後5 時で、時給は1100 円~ 1300 円。参加者には空き家をシェアハウスと して月1 万5000 円~2 万1000 円で貸している。
大谷会長は町内の農家の出身で、愛知県でサラリーマンをしていたが、父の病気で28 歳のときにU ターンし家業を継いだ。そのとき、地元の農家から「人手が足りず、収穫に支障をきたしている」という窮状を耳にし、農家と担い手を結びつける援農事業を個人的に開始。その後、協議会として組織化したそうだ。農家と担い手のマッチングは自治体が手がけるケースが多いなか、民間主体で運営しているのはめずらしい。参加者からは「農作業の体験ができ、貴重な機会だ」と好意的な感想が寄せられ、受け入れ側の農家からも「作業負担が減るのはもちろん、若い人と交流できて気持ちに張りが出る」と好評だ。
課題は援農体験から就農になかなか結びつかないこと。これまでの7 年間で、援農を機に現地に移住し就農した例はひとりだけという。大谷会長は「異業種から農業に飛び込むのは制度的、経済的にも大変。スムーズに就農につなげられるよう提言を重ねたい」と話している。
(問)加茂川協議会 info@from-farm.com
HP:https://www.wakayamagurashi.jp/work/experience/mikan_ennou
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本記事は地域における〝産業栽培〟をテーマとした月刊『コロンブス』10月号に掲載されています。