独自の研磨技術と伝統工芸の粋を凝らした高級万年筆

腕時計用サファイアクリスタルを国内外の高級有名ブランド向けに供給し、半導体や精密部品に用いられる難削材の研磨加工を得意としてきた㈱秋田研磨工業。その独自の研磨加工技術を「万年筆のペン先(ニブ)」に採用したことが話題に。ニブにサファイアクリスタルや人工ルビーを使った高級万年筆を開発し、「KEMMA(ケンマ)」ブランドを立ち上げたのだ。

「万年筆でもっとも重要とされるニブには、一般に柔らかくて加工しやすい金やステンレスの先端をイリジウムで表面処理したものが使われているが、サファイアクリスタルなどを使用することで、滑らかな書き味とステンレスの10倍以上に相当する耐久性を持たせることに成功した」と話すのは阿部忠雄社長(73歳)。また「ニブに空気穴はないが、微細加工による独自形状でインクが下がるようになっている。この構造は当社独自のもので、日本や米国で特許を取得することができた」という。軸には能登の輪島上塗や秋田・湯沢市の川連塗など、伝統工芸士による蒔絵や沈金が施され、秋田杉や屋久杉といった銘木を使った万年筆も。1本およそ10万~250万円と値は張るが、独自の研磨技術と伝統工芸の粋を凝らした逸品として注目を集めている。

社内に備えた KEMMA の展示室では購入もできる
伝統工芸と研磨技術を融合させた万年筆は書き味も滑らかだ

「すぐやる。必ずやる。絶対やる。」の精神

もちろん、同社は万年筆の専業メーカーではない。創業時はセラミックス基盤など電子部品を生産し、ついで時計針加工や光学ガラス生産、プロジェクター用サファイアクリスタル研磨なども手掛けた。また、スマートフォンが普及する直前の2013年にはスマホ用サファイアクリスタルを開発し、量産化に成功。今も国内で唯一、その加工ノウハウを持つメーカーとして圧倒的な存在感を放っている。さらに22年には京セラが開発した再結晶ルビーの加工に成功し、カシオG-SHOCK「MR-Gシリーズ」の文字盤外周部のリングにも採用されている。技術力も高く、「歩留まり99.99%で、不良品は少なくとも10年間ゼロ」というから驚きだ。

こうした実績を誇りながら、なぜ万年筆に取り組んだのか。そこには「受注の浮き沈みがあるなかで、稼働していない機械を有効活用し、社員の技術力を高める狙いがあった。これからも『すぐやる。必ずやる。絶対やる。』という精神で、あらたなことに挑戦しつづけたい」と阿部社長は話す。最近のチャレンジ作はサファイアクリスタルや人工ルビーを埋め込んだゴルフパターで、はやくも実用新案を取得したという。「研磨技術を軸にしたモノづくりはまだまだ多くの可能性を秘めている」と意気軒高だ。

研磨加工したサファイアクリスタルは無色透明で耐久性もバツグン
「不良品は 10 年間ゼロ」と自信をのぞかせる阿部社長

辻田廣光さん
あきた企業活性化センター
経営支援部

秋田研磨工業はダイヤモンドにつぐ硬度を誇る人工サファイアクリスタルの研磨などの高度な加工技術で、腕時計のカバーガラスや電子部品の基板など、職人の手仕事ならではの魅力ある製品を造りつづけています。同社の名前を一躍有名にしたのが、アイデアマンの阿部社長が 7 年の歳月をかけて開発した、サファイアやルビーをペン先に持つ新型万年筆「KEMMA」。 ペン先以外の部品も県内企業が手掛けており、この 1 本から地域が活性化し雇用が拡大していくことを願っております。