M7.6、1000年に1 度の 大地震で
能登半島を中心に甚大な被害が発生!!

2024年の新年早々に起こった能登半島地震。家屋はなぎ倒され、漁港は隆起で使用不能に。観光地としても知られる輪島朝市通り(石川県輪島市)では大規模な火災が発生し、多くの国民がテレビの前で一帯に広がる火の海に茫然としたはず。一方で能登半島の地形的な問題もあって、発災直後は各種メディアからの報道だけでは現地の状況が把握できず、多くの人がもどかしい思いを抱いた。そうした状況のなか、輪島朝市通りの入口に支局を構える弊誌は東京から記者4名で現地入りし、現地の駐在記者1名と合流した。そこで目にしたのは一面に広がる焼け野原と憔悴しきった住民の顔だった。

土地の隆起により漁港が壊滅状態‼ 輪島港が使用不能に

■数千年に一度、数千年で最大級の隆起が起きた輪島港

この大きな地殻変動により輪島港も甚大な被害を受けた。さっそく、1月11日、輪島市内に弊誌編集長をはじめ、弊誌記者2名、動画記者1名の4名が取材のために市内入りし、地元駐在の記者1名と合流し取材をはじめた。以下はその被害レポートである。まずビックリさせられたのは、防波堤や岸壁などが2~4メートルもせり上がり港湾施設の多くが損壊し、漁港の海底は隆起し水深が浅くなっていたことだ。海底に船底がついてしまった漁船も多く、漁業再開の見通しは立っていない。現在も、海上保安庁は「本州北西岸、輪島港、水深減少及び水中障害物存在」と航行警報を出しており、多くの漁港で水深が確保されていない可能性が指摘されている。

漁港はいたる所で大きく地割れが。地殻の大きな変動により桟橋のコンクリー トが破損、大きな段差が発生している。復旧には時間がかかりそうだ
海岸の隆起によって水位が下がり、船舶が接岸できない状況になっている

■目の前から海が消え、漁船への被害は甚大、
絶望の中で途方に暮れるしかない漁師たち

当然、漁船が打ち上げられ漁港を使用することができない漁民はなす術もなく、茫然としているのみ。輪島港で漁業を営む萬正(ばんしょう)俊介氏(39歳)は「この輪島港にあるほぼすべての漁船の船底が隆起した海底に押し上げられてしまった。船底が海底についてしまっていることで破損し、水漏れなどが発生している船が多くある。船を動かすこともできず漁に出ることもできない。船の修繕には莫大な費用が必要だし、浅くなってしまった港を復旧することができるかどうかわからない、絶望的だ。復旧工事などがはじまれば頑張る気にもなれるが、そんな動きはない。今は自分たちが生きていくだけでも精一杯。まともに漁ができるのは何十年先になるのだろう」と肩を震わせた。

輪島港で漁業を営む萬正氏。港の海底が隆起してしまったことで漁船が出港できない状況がつづく。漁の再開目途が立たず不安を訴える
打ち上げられたというよりは、隆起した地面に持ち上げられた船

さらに、漁業を生業とする住民が多い輪島市の突端にある輪島崎町内で話を聞くと、後継者の不在などの理由から「ひとりで暮らす高齢の漁業関係者は漁業を再開できるまでの期間が長くなることに絶望し、漁業の継続をあきらめてしまう人や親族の住む金沢あたりに一時的に避難する高齢の漁師もいる」という。また、輪島朝市通りで中華料理店を営む板谷美津子さん(73歳)は「今回の地震は生まれて初めて経験するほど大きな地震だった。自分の体を支えることがやっとで、気がついたら家中のものが倒れてしまっていた。玄関の下駄箱も倒れてしまい逃げ出せないところを近所の人たちに助けてもらった」と地震発生時の緊迫した状況を語ってくれた。そして「朝市通りや自分の店舗も焼失してしまい、このまちがこれらからどうなるのかわからない。朝市の組合員が多い輪島崎町と海士町の漁港の被害が大きく、今後の復興の道筋が見えない」と不安を滲ませた。

隆起によって水位が下がり、漁港に停泊中の漁船の多くが陸に打ち上げられ た状態に。漁業を再開できない状況だ。漁家が多い輪島市にとってはダメー ジが大きい

■被害規模が暗中模索で不安の中、
漁師たちは自分と地域産業の復活という難題も抱えている

このように地元漁業関係者は一様に今後の先行きに不安を感じているが、それらの対応策については明らかになっていない。水産庁の漁港部門の関係者は「現在、県や市町の自治体が被害把握に努めているフェーズ。どのような復旧を行うかは、被害を把握しどのような対応が必要なのか判明してからとなる」と語り、復旧方法については、まだきまっていないとしている。海底に船底がついてしまった船体の回収方法や修理方法についても漁民に聞いてみた。

「地元には船大工もいなくなったし、船体はFRPという素材が多く修理が難しいのでは」と不安気な表情を浮かべていた。それについても現場から3・11で被災した宮城県気仙沼市のある造船会社の関係者に問い合わせてみると「海底の状況や漁船の種類、破損状況によって対応方法が異なってくる」とし、もし船底が海底についているのなら「クレーンによる船体のつり上げで回収する可能性も高いが、陸上からクレーンを使うには港湾の整備が必要だ。海上クレーンの使用もあり得るが、海底の状況しだいだろう」と話してくれた。

約250 隻が停泊する輪島港。船体が海底に乗りあがり、船体が傾いている。 長期間、この状態がつづくと船底の破損が心配である
輪島市にある曹洞宗聖光寺。1260年(分応元年)円明国師の建立といわれ、 1500年頃(天文年間)に能登の国守畠山氏の重臣温井氏が菩提寺として建てら れた寺院。墓石はすべて倒れ、本堂や庫裏(くり)は前後左右に傾き、境内に は大きな地割れが

また、被害を受けた漁船の修理代についても船主は心配していた。輪島港漁船は10トン~20トン未満が多いという。このクラスの船だと新造で一隻1億円から3億円くらいだそうだ。国や県からの補助もあるが、それでも額が大きいので心配だ、と不安顔で話していた。その点について漁船保険を取り扱う日本漁船保険石川県支部に保険金の支払い申請状況を聞くと「漁業関係者は被災直後で自分が生活することで精一杯の状況。現在、県内の各漁港に職員を派遣して被害の状況を調査中、調査が終了して支払申請が急増するフェーズに向けて粛々と準備をすすめている」とのこと。とにかく復旧の道のりを関係機関は具体的、かつ明確に、そして早急に示してほしいものだ。